この章では,プリント・システムをインストールする際の計画について説明します。
プリント・システムをインストールするには入念な計画が必要です。プリント・システムを作成する前に次の質問項目を検討してください。
サーバ・コンポーネントのホストとして働くのはどのコンピュータか ?
クライアント・コンポーネントのホストとして働くのはどのコンピュータか ?
ユーザ,オペレータ,管理者は誰にするのか ?
どのネーム・サービスを使用するのか ?
論理プリンタをどのように物理プリンタにマップするのか ?
ジョブとドキュメントでは,どのような省略時の値を必要とするのか ?
この章では,これらの質問に答えるための説明を行います。この章では概要だけを説明し,ソフトウェアをインストールするコマンドや,オブジェクトを作成するコマンドの詳細については説明しません。オブジェクト作成の詳細情報については,本書のこれ以降の章で説明し,ソフトウェアのインストール手順については,『インストレーション・ガイド』を参照してください。
2.1 論理構成
プリント・システム・ソフトウェアのコンポーネントを設定するにはいくつもの方法があります。この節では,クライアント・コンポーネントおよびサーバ・コンポーネントのインストール方法とインストール場所,インストールするサーバの数を決める方法や,全コンポーネントが効率的に通信し合うことを確実にする方法について説明します。
2.1.1 プリンタの構成
サーバ,プリンタ,キューは,システム内で高い柔軟性を持って構成できます。1 つのホスト上ですべてのプリント・システム・コンポーネントを実行することも,あるいはプリント・システム・コンポーネントを分散して,それぞれの機能に合ったホスト上で実行することもできます。たとえば,サーバ・ホスト上でサーバ・プロセスを実行し,ユーザ・ワークステーション上でプリント・システム・クライアントを実行することもできます。
2.1.2 複数サーバ・ホスト
プリント・システムのスプーラとスーパバイザは,それぞれ異なるホスト上に存在していても相互に通信することができます。たとえば,配線が楽になるよう,直接接続された複数台のプリンタの近くにあるホストでスーパバイザを実行し,一方,スプーラは,建物やサイト内の任意の場所にあるサーバ・ホスト上で実行することもできます。
プリント・システム・コンポーネントを実行する際に複数のホストを使用するときには,作成するオブジェクトの名前を,それらのオブジェクトを必要とするすべてのホストに配信する必要があります。
2.1.3 サーバの制限事項
プリント・システムのスプーラとスーパバイザに対して,論理プリンタ,物理プリンタ,キューを構成する際には,いくつかの制限事項が適用されます。
あるキューに関連付けられているすべての論理プリンタは,そのキューと同じスプーラ上に存在する必要があります。
あるスーパバイザ上のすべての物理プリンタに関連付けることができるのは,1 つのスプーラ上のキューと論理プリンタだけです。
プリンタをシステム内に構成するときには,論理プリンタと物理プリンタの間で緊密な関連付けを確立するかどうかを選択できます。
2.1.5 緊密な関連付けと疎遠な関連付け
一部のユーザにとって,論理プリンタと物理プリンタの概念とその違いを理解するのは難しいことかもしれません。あるいは,論理プリンタと物理プリンタとの区別をする必要がないこともあります。そのような場合は,論理プリンタ,物理プリンタ,キューの 3 つを,1 つのプリンタとして共同で動作するように密接に結合させて作成します。つまり,すべての出力デバイスはこれらのオブジェクトそれぞれ 1 つによって表されます。
2.1.6 疎遠な関連付け,ファン・イン・キューとファン・アウト・キュー
ユーザの混乱が最小限あるとしても,プリンタ構成の変更が可能なプリント環境において柔軟性が必要となる場合には,論理プリンタと物理プリンタの抽象化を活用してもよいでしょう。
たとえば,ある「プリンタ・ルーム」に,すべて同じ機能を持つ複数の類似した出力デバイスがあるとします。いくつかの物理プリンタを 1 つのキューに関連付けることは,「負荷分散」構成を実装することになり,ここで,ユーザが 1 つの論理プリンタに対してジョブを実行すれば,システムは印刷のために次に利用可能なデバイスを選択します。このような構成は,ファン・アウト・キューと呼ばれることもあり,ユーザから見える部分には何ら影響を与えずに,個々のプリンタへのサービスを提供したり,追加のプリンタを構成したり,余分なプリンタを取り除いたりできます。
これに対して,ファン・イン・キュー構成とは,複数の論理プリンタのジョブが 1 つのキューに入るものです。初期値オブジェクトを使用して,論理プリンタを特定の省略時のジョブとドキュメントのオプションで設定することもできます。そのようなプリンタは,それぞれ独自のジョブ処理機能を持つと考えられます。たとえば,ある論理プリンタはテキスト・ドキュメントを縦長モードで片面に 1 ページを常に印刷するように設定し,別の論理プリンタは行番号付きの横長モードで片面に 2 ページのテキスト・ドキュメントを印刷するように設定できます。これらそれぞれの論理プリンタを 1 つのキューに関連付けると,システムはこれらの論理プリンタに対して実行されたドキュメントを,そのキューに関連付けられた 1 つ以上の物理プリンタに出力します。
ファン・イン・キューとファン・アウト・キューは,一緒に使用することで高い柔軟性と便宜性を提供できます。
2.1.7 単一ホスト上での複数のスーパバイザの使用
サーバ属性
maximum-number-of-printers-supported
で指定されているよりも多くの数の出力デバイスを 1 つのサーバでサポートしようとする場合,複数のスーパバイザ・プロセスとオブジェクトを使用する必要が出てきます。次の理由から,最大数に達する前でも複数のスーパバイザをサポートすることもあります。
負荷が過剰にかかっているサーバ・プロセスが単一の障害点を構成すると,ダウンする可能性がある。
最大数よりも少なく作成する方が,ニーズが変更するたびにシステムを再構成する際の柔軟性が高くなる。
負荷が過剰なサーバ・プロセスは応答性が低くなり,また,大きくなるので,スワップするのが難しくなる。また,スワップはより多くのプリンタに影響する。
出力デバイスの中には,ホスト・システムのハードウェアに直接取り付けられているシリアル・ポートやパラレル・ポート経由で接続されたものがあります。プリント・システムでは,このように直接接続されたプリンタを備えたすべてのホスト上で,スーパバイザ・プロセスを実行する必要があります。使用中の環境で,ユーザのワークステーションにそのようなプリンタが何台か接続されている場合,それぞれのワークステーションでスーパバイザ・プロセスを実行する必要があります。それらのワークステーションの管理者は,中央の 1 つのスプーラ上のキュー,あるいは分散された複数のスプーラ上のキューに対して,物理プリンタを関連付けるかどうかを選択できます。
2.2 ネーミング・サービスの計画
サーバ,キュー,プリンタの数が多くなるにつれ,一意のオブジェクト名を割り当てて,管理し,配信することは,次第に複雑な作業になります。このような環境では,Network Information System (NIS) ソフトウェアを活用して,集中管理したプリンタ・オブジェクト名マップを配信するとよいでしょう。
プリンタ構成ファイルと Network Information System ソフトウェアの詳細については,第 3 章の「ネーム・スペースの管理」を参照してください。
2.3 通知
プリント・システム・アーキテクチャは,プリント・システムでイベントが発生したときに,エンド・ユーザ,オペレータ,管理者に通知するための方法を提供します。
詳細については第 9 章を参照してください。
2.4 セキュリティ
セキュリティ機能によって,ジョブ・データや管理機能へのアクセスを制御することができます。これらの機能はすべての操作要求に対して認証と許可のチェックを行うことにより,許可されたユーザだけがプリント・システムへのアクセスを取得することを保証します。
認証とは,ユーザが,主張しているその人であることの正当性を検査する処理です。
許可とは,認証されたユーザが特定の操作を実行するために必要なアクセス許可を備えていることを確認する処理です。
ユーザのアクセス許可には,次の 3 つの特権レベルがあります。
エンド・ユーザ
オペレータ
管理者
特権レベルにはアクセス順序があります。管理者は,オブジェクトを構成でき,それに加えてオペレータが実行できるすべてのタスクを実行できます。オペレータはプリントの制御ができ,それに加えて,エンド・ユーザが実行できるすべてのタスクを実行できます。
プリント・システムは,access-control-list
属性を使用して,各ユーザに特権レベルを指定します。認証は,access-control-list
属性内のエントリに操作要求を開始したユーザに対して,ドメインのパスワード・ファイル内のユーザ識別子 (UID) との比較を行います。この比較が成功した場合,次に,ユーザの特権レベルについて
access-control-list
属性をチェックする許可処理が行われます。
2.5 プリント・システム・ソフトウェアの構成
この節では,プリント・システムを最初に構成して,開始するために必要なタスクの概要を説明します。タスクは実行する順に説明しており,また,必須タスクの他にオプションのタスクも含めています。
それぞれのタスクでは,簡潔な説明を記載し,タスクの実行方法を詳細に説明している本書内の章を示しています。
サーバ,スプーラ,インバウンド・ゲートウェイ・サーバを作成して,構成する。
サーバの作成と構成に関しては,第 5 章を参照してください。
インバウンド・ゲートウェイの作成と構成に関しては,第 10 章を参照してください。
キューとプリンタを作成して,構成する。
論理プリンタ,物理プリンタ,キューの作成と構成に関しては,第 6 章を参照してください。
ネーミング・サービスを設定する。
システムをサポートするために使用するネーミング・サービスの設定に関しては,第 3 章を参照してください。
セキュリティを設定する。
プリント・システムのセキュリティに関しては,第 4 章を参照してください。
オプションとして,イベント通知を設定する。
イベント通知の設定に関しては,第 9 章を参照してください。
Advanced Printing Software キットには,管理者が作動中のプリント・システムを構成するために使用できる,文字セルでメニュー形式のスクリプトが含まれています。このスクリプトは
/usr/pd/scripts/pd_get_started
ディレクトリにあり,新しいプリント・オブジェクトを作成するときに root ユーザが実行する必要があります。
pd_get_started
スクリプトによって,スプーラ・プロセスとスーパバイザ・プロセス,論理プリンタと物理プリンタ,キュー,および関連付けられた初期値オブジェクトの作成はかなり簡単になります。また,このスクリプトは,サーバ・プロセスの起動とシャットダウンの手段,およびローカル・サーバ構成の表示のための手段も提供します。
このスクリプトは,日常的なプリント・システムの管理用ではありません。これは,システムをただちに起動して,稼働するために最も便利なものです。日常のプリント・システム管理には,CDE pdprintadmin GUI ツールの方が適切です。