10    メールとカレンダの移行

この章では,メールおよびカレンダを CDE へ移行する方法について説明します。多くのユーザは,現在のメール・フォルダとカレンダ・データベースを新しい環境下でも引き続き利用したいと思うものですが,一般に新しいアプリケーションに変更することによって,この情報が失われることがよくあります。複雑な移行を簡単にするために,この章で説明するツールを使用して,既存の dxmail および dxcalendar のフォルダとデータベースを,CDE メール・アプリケーションおよびカレンダ・アプリケーションで認識可能なフォーマットに変換できます。

CDE のメール・アプリケーションおよびカレンダ・アプリケーションの使用方法については,『Common Desktop Environment: ユーザーズ・ガイド』を参照してください。メール・ハンドラ MH/dxmail および dtmail の相違点については,付録 A を参照してください。

この章では,次の事項について説明します。

10.1    メール・フォーマットの変換

CDE のメール・アプリケーションは環境と完全に一体化しているため,既存の dxmail アプリケーションを引き続き使用するよりもユーザにとって便利です。たとえば,CDE の別のアプリケーションからファイルをドラッグして,このメール・アプリケーションにドロップすれば,そのファイルをメール・アプリケーションで処理することができます。

また,CDE メール・アプリケーションでは,MIME (Multimedia Internet Messages Extension) をサポートしています。この機能により,ASCII テキスト以外のフォーマットのメール・メッセージ (たとえば,ビデオ・フォーマットのメッセージ) を送受信できます。

メールのフォーマットを,CDE メール・アプリケーションで読み取り可能なフォーマットに変換するには,両方のアプリケーションでのメールの格納方法を理解しておく必要があります。その上で,mailcv ユーティリティまたは CDE ファイル・マネージャを使用することによって,メールを dxmail フォーマットから dtmail フォーマットに変換できます。

この節では,次の事項について説明します。

10.1.1    メールの格納方法について

アプリケーション dxmail および dtmail では,それぞれ異なる方法で情報を格納します。このため,dxmail フォルダを,dtmail アプリケーションで読み取り可能なフォーマットに変換しなければなりません。

10.1.1.1    MH/dxmail の格納

メールを格納するために,MH/dxmail アプリケーションはメールの階層構造を最上位ディレクトリで作成します。このディレクトリの位置は,$HOME/.mh-profile で定義されています。このプロファイルは,最上位ディレクトリの位置を指定するだけでなく,メールの設定に関するその他の情報も含んでいます。通常,最上位ディレクトリのパスは $HOME/Mail に設定されています。このパスを変更した場合は,+ フラグを指定して mhpath コマンドを使用することにより,ディレクトリの位置を確認できます。メール・フォルダの変換の際には,最上位ディレクトリの位置を把握しておく必要があります。

注意

mhpath コマンドを使用するには,MH サブセットがシステムにインストールされている必要があります。

最上位ディレクトリ Mail の下に,他のディレクトリ (フォルダ) またはファイルを複数設定できます。メッセージはフォルダ内に番号順に格納されます。各メッセージは,次に示すように,個々のファイルに対応しています。

Mail          
/inbox /drafts /meetings   /personal  
1,2,3 1,2 /group /unit 1,2,3 /gardening
    1,2,3 1,2,3   1,2,3

上記の例では,最上位ディレクトリ Mail のすぐ下に 4 つのフォルダがあります。各メッセージは,番号がついて格納されます。たとえば,Inbox フォルダの下には,各メール・メッセージを保持する 3 つのファイルがあります。これらのファイルにはそれぞれ,123 という番号がつけられます。meetings ディレクトリなどのように,その下にサブディレクトリを持つこともできます。meetings ディレクトリの場合,さらにその下に group および unit というサブディレクトリがあります。メール・メッセージは,これらのディレクトリにおいてさらに細かく番号順に分類されます。

10.1.1.2    CDE メールの格納

CDE メール・アプリケーション dtmail には,メッセージ格納のために設定された構造がありません。アクセスできるディレクトリであればどのディレクトリにもメール・フォルダを作成できます。また,UNIX "From" フォーマットを使用して,1 つのメール・フォルダに複数のメッセージを格納できます。同じメール・フォルダに格納されたメール・メッセージは連結され,UNIX From ヘッダによって各メッセージが区切られます。mailx などのメール・ユーティリティではこのフォーマットを使用しているため,これらのメッセージを読み取ることができます。次に示すのは,dtmail アプリケーションを使用して作成できるメール階層の例です。この例では,.mbe という拡張子のついたメール・フォルダにメッセージが格納されます。

MailBox        
inbox.mbe drafts.mbe /meetings   /status
    /group /unit jan.mbe feb.mbe
    wkly.mbe mthly.mbe  

この例では,MailBox という最上位ディレクトリが表示されています。この最上位ディレクトリの下には,ディレクトリとメール・フォルダがあります。メール・フォルダには 1 つまたは複数のメール・メッセージを保持できます。メール・ディレクトリにはメール・フォルダおよび他のサブディレクトリを入れることができます。メッセージは,格納された順に連結されます。

10.1.2    メール変換ユーティリティによるメールの変換

mailcv ユーティリティは,ディレクトリ全体または個々のフォルダを変換するためのコマンド行インタフェースです。メールの変換方法を制御するためのフラグもいくつか用意されています。さらに,mailcv ユーティリティを使用してメッセージ格納時のエラーを検出することもできます。メール変換ユーティリティについての詳細は, mailcv(1) リファレンス・ページを参照してください。

省略時の設定では,dxmail アプリケーションで作成したすべてのメッセージ (不正なメッセージも含む) が変換されます。不正なメッセージについては,10.1.2.4 項を参照してください。

10.1.2.1    メール・ディレクトリ全体の変換方法

mailcv ユーティリティを使用してメール・ディレクトリ (フォルダ) 全体を変換するには,次の手順に従ってください。

  1. 最上位のメール・ディレクトリに移動します。省略時のパスは $HOME/Mail です。

  2. ディレクトリおよびサブディレクトリ全体を変換したい場合は,-A フラグをつけて mailcv コマンドを入力します。その際,現在のディレクトリ名と作成する新しいディレクトリ名を指定しなければなりません。

    
    % mailcv -A $HOME/Mail $HOME/NewMail
    

    上記の例では,NewMail という新しい最上位ディレクトリが作成されます。このとき,dxmail のフォルダ構造に対応するサブディレクトリが作成されて,すべてのメール・メッセージが変換されます。

10.1.2.2    個々のフォルダの変換方法

mailcv ユーティリティを使用して個々のフォルダを変換するには,次の手順に従ってください。

  1. 変換したい MH のフォルダ・ファイルおよびメッセージ・ファイルが入っているディレクトリに移動します。

  2. フォルダを UNIX From フォーマットに変換したい場合は,-f フラグをつけて mailcv コマンドを入力します。その際,次に示すように現在のフォルダ名と新しいフォルダ名を指定しなければなりません。

    
    % mailcv -f inbox Inbox
    

    上記の例では,Inbox という新しいフォルダが作成されます。新しいフォルダ名を指定しなかった場合は,現在のフォルダ名に拡張子 .mbe がついた名前で作成されます。

    変換するフォルダにサブフォルダがある場合,サブフォルダは変換されません。各フォルダまたはサブフォルダを変換するには,そのつど上記の処理を行います。

10.1.2.3    メール変換制御フラグの使用方法

mailcv コマンドには,メール・フォルダおよびメール・ディレクトリの変換時に使用するコマンド・フラグが用意されています。これらのフラグについての詳細は,mailcv リファレンス・ページを参照してください。

mailcv コマンドには,次のような処理のためのフラグが用意されています。

10.1.2.4    不正なメール・メッセージの変換

不正なメッセージを処理するフラグを指定しないで mailcv ユーティリティを使用すると,メッセージ・ヘッダは次のように変換されます。

10.1.3    ファイル・マネージャによるメールの変換方法

CDE ファイル・マネージャは,ディレクトリおよびファイルをグラフィック表示します。CDE ファイル・マネージャを使用すると,メール階層全体を変換できます。また,フォルダを 1 つ選択して変換することもできます。

CDE ファイル・マネージャは mailcv ユーティリティを呼び出して変換を実行しますが,メール・ヘッダのエラーを検出するフラグを指定するオプションはありません。メール・ディレクトリを変換する前にエラーを検出するには,mailcv ユーティリティのコマンド行インタフェースを使用してください。不正なファイルを解決しておかないと,それらのファイルは10.1.2.4 項に示すように変換されます。

10.1.3.1    メール階層全体の変換方法

CDE ファイル・マネージャを使用してメール階層全体を変換するには,次の手順に従ってください。

  1. CDE ファイル・マネージャを起動します。

  2. 変換する MH フォルダが入っているディレクトリに移動します。

  3. マウス・ポインタを MH メール・フォルダ・アイコンの上に置き,マウス・ボタン 3 をクリックしてアクション・メニューを表示します。

  4. アクション・メニューで Mail Convert を選択します。

    ダイアログ・ボックスが表示されます。ここで新しいディレクトリ階層のパス名を入力します。新しいディレクトリ名を入力した後,OK をクリックしてください。

ディレクトリ階層の新しい位置を選択した後,mailcv ユーティリティは変換を開始します。メール階層の規模により,変換に多少時間がかかる場合があります。変換が終了すると,メールは CDE メール・アプリケーションからアクセスできるようになります。

10.1.3.2    個々のフォルダの変換方法

CDE ファイル・マネージャを使用して 1 つのフォルダを変換するには,次の手順に従ってください。

  1. CDE ファイル・マネージャを起動します。

  2. パスを,最上位メール・ディレクトリのある MH パス名に設定します。ディレクトリの位置が分からない場合には,+ フラグをつけて mhpath コマンドを実行して確認してください。

    注意

    mhpath コマンドを使用するには,システムに MH サブセットがインストールされている必要があります。

    パスの設定後,CDE ファイル・マネージャは Mail ディレクトリ (フォルダ) を表示します。各ディレクトリ (フォルダ) はアイコンで表示されます。

  3. 変換したいフォルダに移動します。

  4. アクション・メニューで Mail Convert を選択します。

    ダイアログ・ボックスが表示されます。ここで新しいフォルダ名を入力します。入力後,OK をクリックしてください。

フォルダの新しい位置の選択後,mailcv ユーティリティは変換を開始します。変換するフォルダのサブフォルダは変換されません。フォルダのサイズにより,変換に多少時間がかかる場合があります。変換が終了すると,メールは CDE メール・アプリケーションからアクセスできるようになります。

10.2    カレンダ・データベースの変換

dxcaltodtcm アプリケーションは,dxcalendar アプリケーションで作成したカレンダ・データベース・ファイルを,CDE カレンダ・アプリケーション dtcm で使用可能なフォーマットに変換します。

dxcalendar データベースを変換するには,次の手順に従ってください。

  1. -migrate オプションを指定して dxcalendar コマンドを起動します。

    $ dxcalendar -migrate
    

    $HOME/dwc_db_migration.data というテキスト・ファイルが作成されます。このファイルにはカレンダ・エントリが格納されます。

  2. CDE カレンダ・アプリケーション,dtcm を実行して,時間の表示を 12 に設定します。

  3. dxcaltodtcm アプリケーションを起動して,作成されたテキスト・ファイルを読み込み,そのファイル内のエントリを CDE カレンダ・データベースに追加します。

dxcalendar コマンドは /usr/bin/X11 に入っています。dxcaltodtcm コマンドは /usr/dt/bin に入っています。

注意

DECwindows カレンダの機能の一部が CDE のカレンダで使用できないため,カレンダ・データベースの変換時に情報の一部が失われる場合があります。制限事項については, dxcaltodtcm(1) のリファレンス・ページを参照してください。