Advanced Printing Software のユーザは,アクセスと特権のレベルに基づいて分類できます。特定のコマンドにアクセスできるかどうかは,そのユーザに割り当てられたアクセス・カテゴリによって決まります。ユーザには,エンド・ユーザ (End User) 特権,オペレータ (Operator) 特権,または管理者 (Administrator) 特権を割り当てることができます。エンド・ユーザは,一定の操作に対してのみアクセスできます。管理者は,すべてのレベルの操作にアクセスできます。オペレータのアクセス権は,エンド・ユーザと管理者の中間です。
以降の各項で,Advanced Printing Software のこれら 3 種類のユーザについて説明します。
1.1.1 エンド・ユーザ
エンド・ユーザは,次の操作を行うことができます。
プリント・ジョブをプリンタに対して実行する。
プリント・オブジェクト属性の名前と値の一覧を表示する。
自分が実行したプリント・ジョブの状態情報を要求する。
自分が以前に実行したジョブのジョブ属性およびドキュメント属性を変更または設定する。
自分が以前に実行したプリント・ジョブ,またはマルチ・ドキュメント・ジョブ内の指定したドキュメントの削除や取消しを行う。
自分が実行したプリント・ジョブを,指定した他のプリンタに再実行するように要求する。
オペレータは,エンド・ユーザが行える操作に加えて,次のタスクを実行できます。
指定したプリント・ジョブのキュー内の順位を上げて,出力先の物理プリンタで次に印刷されるようにする。
プリント・サーバで受け付けられた特定のプリント・ジョブを,指定した他のプリンタに再実行するように要求する。
指定したプリンタ,キュー,またはサーバで新しいプリント・ジョブの受け付けを可能にする。
指定したプリンタ,キュー,またはサーバで新しいプリント・ジョブの受け付けを不能にする。
プリンタに
xxx-ready
属性を設定する。
処理待ち状態のジョブ,現在印刷中のジョブ,プリンタ,キュー,またはサーバを一時停止する。
一時停止したジョブ,プリンタ,キュー,またはサーバを再開する。
指定したプリンタをシャットダウンする。
管理者は,エンド・ユーザおよびオペレータが行える操作に加えて,次のタスクを実行できます。
特定のサーバまたはキューで現在スケジューリングされているすべてのジョブを削除する。
初期値ドキュメント,初期値ジョブ,プリンタ,またはキューを作成し,それらの属性にオプションで指定した値を設定する。
ドキュメント,ジョブ,初期値ドキュメント,初期値ジョブ,プリンタ,サーバ,キューの各オブジェクトを削除する。
すべてのプリント・オブジェクトに対する属性値を設定する。
コマンド行ユーティリティの操作はすべて,次の形式の構文で実行します。
utility-name -option-option option-argument object-instance
コマンド行操作構文は次の要素から成ります。
コマンド
オプションおよび引数
オペランド
ユーティリティは,Advanced Printing Software の機能を実行する CLI プログラムです。ユーティリティ名は,コマンド行の最初の要素として記述する必要があります。ユーティリティにはいくつかの種類があります。
表 1-1
に,システム管理者がプリント・システムのオブジェクトの作成および管理に使用する CLI ユーティリティを示します。
表 1-1: 管理者ユーティリティ
ユーティリティ | 説明 |
pdcreate | オブジェクトを作成し,その属性を設定する。 |
pddelete | オブジェクトを削除する。 |
pdmakedb | プリント・システムのスーパバイザまたはスプーラで使用するオブジェクト・データベースを作成する。 |
pdmoddb | 既存のオブジェクト・データベースを変更する。 |
pdset | プリンティング・オブジェクトの属性を設定する。 |
pdshowdb | オブジェクト・データベースを表示する。 |
表 1-2
に,オペレータがプリント・システムの保守に使用する CLI ユーティリティを示します。
表 1-2: オペレータ・ユーティリティ
ユーティリティ | 説明 |
pdclean |
指定したサーバ,キュー,またはプリンタでスケジューリングされたすべてのジョブを削除する。 |
pddisable |
サーバまたはプリンタでプリント・ジョブの受け付けを禁止する。 |
pdenable |
サーバまたはプリンタでプリント・ジョブの受け付けを許可する。 |
pdpause |
ジョブ,サーバ,またはプリンタを一時停止する。 |
pdpromote |
ジョブの順位を上げて,そのジョブがプリンタで次に印刷されるようにする。 |
pdresume |
一時停止したジョブ,サーバ,またはプリンタを再開する。 |
pdset |
プリンティング・オブジェクトの属性を設定する。 |
pdshutdown |
サーバまたは物理プリンタをシャットダウンする。 |
表 1-3
に,エンド・ユーザがプリント・システムでのジョブの実行と,実行したジョブの状態情報の取得に使用する CLI ユーティリティを示します。
表 1-3: CLI エンド・ユーザ・ユーティリティ
ユーティリティ | 説明 |
pdls |
プリンティング・オブジェクトの属性の一覧を表示する。 |
pdmod |
以前に実行したジョブまたはドキュメントを変更する。 |
pdpr |
プリント・ジョブを実行する。 |
pdq |
プリント・ジョブの状態をレポート,つまり取得する。 |
pdresubmit |
プリント・ジョブを他の論理プリンタに対して再実行する。 |
pdrm |
プリント・ジョブまたはドキュメントを削除する。 |
オプションは,コマンドの一部で,ユーティリティの省略時の動作を変更するために使用します。オプションの先頭にはハイフン ( - ) を付けます。
command_name argument object_instance
さらに,次の事項に注意する必要があります。
オプション名は,小文字または大文字 1 文字から成る。
オプションはすべて,オペランドの前に記述する必要がある。
ユーティリティ・プログラムは,オプションおよびオプション引数をコマンド行中に記述された順序で解釈する。
1 つのオプションが複数の機能を持つ場合もあるため,ユーティリティの解説をよく読み,各コマンドで有効になる機能を知る必要がある。
表 1-4
に,利用できるオプションの一覧と簡単な解説を示します。
表 1-4: 共通のオプションおよび引数
オプション | 説明 |
-c class_name |
オペランドのオブジェクト・クラスを指定する。 |
-f filename |
プリント・ジョブでドキュメントとして印刷するファイルを指定する。 |
-f filter_text |
候補オブジェクトを絞り込むための選択基準を指定する。 |
-F |
-f オプションを指定しない場合の省略時のフィルタリングも含め,すべてのフィルタリングを無効にする。 このオプションを指定すると,-f filter_expression オプションを指定しても無視される。 |
-g |
-r オプションを指定して要求された属性の出力でカラム見出しを抑制する。 |
-h |
ユーティリティの呼び出し方法について,標準出力にメッセージを書き込む。 |
-m message_text |
指定されたオブジェクトに分かりやすいメッセージを付加する。 |
-n copies |
印刷されるプリント・ジョブの部数を指定する。 |
-N notification_method |
プリント・ジョブの処理中に発生したイベントのユーザへの通知方法を指定する。 |
-p printer_name |
プリント・ジョブの出力先となるプリンタを指定する。 |
-r requested_attributes |
ユーティリティが標準出力に書き込む属性を指定する。 |
-r retention_period |
サーバから削除されるジョブを保持状態に保つ時間を指定する。 |
-s style_name |
標準出力に書き込まれる出力のスタイル (書式) を指定する。 |
-t job_name |
新しいプリント・ジョブに名前を割り当てる。 |
-w when_time |
サーバのシャットダウン時刻を指定する。 |
-x extended-attribute-string |
ユーティリティで使用する,1つ以上の attribute_type=value の組を指定する。 |
-X attribute_filename |
ユーティリティで使用する,attribute_type=value の組を含むファイルを指定する。 |
多くのオプションには引数が必要です。引数は,当該スイッチの切り替え先を示します。たとえば,-c queue は,操作されるオブジェクトが,その操作のシステムの省略時設定ではなく,キューであることを指定します。
表 1-4
に示すように,引数が不要なオプションもあります。
1.2.4 属性
-x 引数と -r 引数には属性を指定します。オブジェクト属性は,プリント・オブジェクトのプロパティまたは特性のことです。クライアント属性では,CLI コマンドの操作パラメータを指定します。このマニュアルでは,次の 2 種類の属性について説明します。
オブジェクト属性
コマンド属性
各プリント・オブジェクトは,一連のオブジェクト属性によって定義されます。プリント・オブジェクトの特性は,それらの属性の値を設定することによって変更できます。次の例を参照してください。
プリンタ属性 printer-state の値は,idle,printing など,そのプリント・オブジェクトの現在の状態を示します。
プリンタ属性 media-supported の値は,iso-a4-white,iso-a4-transparent など,物理プリンタがサポートする用紙を示します。
プリンタ属性 printer-name の値は,各プリンタを一意に識別するための名前です。
ドキュメント属性 sides の値は,両面印刷が必要なときには,2 に設定できます。
属性は,次に示すいずれか,または両方の方法でプリント・オブジェクトに適用することができます。
システムの省略時設定として指定する。
属性と値 (拡張属性文字列と呼ばれる) をコマンド行操作で直接指定する。
コマンド属性は,CLI コマンドの操作パラメータを指定することにより,ユーザに付加機能を提供します。コマンド属性は,次のように利用できます。
プリント・オブジェクトの状態/プロパティ情報に書式を設定する。
1 つのオブジェクトから別のオブジェクトへ属性をコピーする。
ジョブ終了後,サーバでそのジョブを retained (保持) 状態に保つ時間を指定する。
オブジェクト属性およびコマンド属性の表現は,次の要素から構成されます。
特定の属性を識別するための属性名。
属性に新しい値を設定するための演算子,等号 (=)。
新しい属性値。
次の例を参照してください。
プリンタを新規に作成する場合,管理者は次のような属性を設定して,そのプリンタの物理位置を指定します。
"printer-locations = 'Lab A, Bldg. 21'"
ほとんどの CLI ユーティリティ・コマンドでは,-x オプションの後に 1 つ以上の属性とその値のリストを指定できます。このリストを属性値文字列といいます。次に, -x オプションの使用時に必要な特殊な引用規則を示します。
属性値文字列全体を二重引用符で囲むことができる。
-x "attribute = value"
複数の属性値文字列は,-x オプションを複数指定するか,1 つの -x オプションの後に複数の属性値文字列を指定することによって入力できる。
-x "attribute1 = value1" -x "attribute2 = value2"
-x "attribute1 = value1 attribute2 = value2"
複数の値を持つ属性の場合,属性値文字列全体または値の部分だけを二重引用符で囲んで指定する。
-x attribute = "value1 value2 value3"
-x "attribute = value1 value2 value3"
スペースを含むテキスト・タイプ構文の属性は,引用符で 2 段階に囲む必要がある。
-x attribute = "'single valued string with spaces'"
-x 'attribute = "single valued string with spaces"'
-x attribute = "'value1 with spaces' 'value2 with spaces'"
-x "attribute = value attribute = 'a text attribute with
spaces'"
属性を示す文字列の中にある引用符,アポストロフィの前には \ 記号 (バックスラッシュ) を付ける。
-x attribute = "'It\'s time to retire'"
-x "attribute = 'Bob\'s printer'"
属性文字列内の空白 (スペース,タブ)。
-x "attribute = 'Hello'"
複合属性は中カッコ { } を使って指定する。複合属性の各構成要素を,それ自体が 1 つの属性であるかのように中カッコで囲む。
-x finishing = {named-finishing=offline finishing-message
= 'Send out for special finishing' }
属性および標準識別子の値は,その名前または値を構成する各単語の 2,3 の文字だけを使って短縮できます。たとえば,job-sheets 属性は j-s に短縮でき,job-copy-start 値は j-c-s に短縮でき,これらの attribute=value の組は j-s=j-c-s として指定できます。
システムは,あいまいでない短縮形だけを受け付けます。たとえば,job-owner を j-o と短縮するのは,job-originator の短縮形と区別が付かないので無効です。属性または値の名前は,それが一意に識別できるように指定する必要があります。あいまいな短縮形を指定すると,そのコマンドは拒否されます。
有効な短縮形の例は,job-owner なら j-ow,job-originator なら j-or,iso-a3-white なら i-a3-w です。
各サイト固有の用紙やトレイの名前など,標準識別子以外の名前の値は短縮できません。
1.2.4.6 属性変更操作
attribute=value の組に演算子を付加して,指定した属性に加える変更のタイプを指定することができます。変更演算子は次の 3 つです。
+ (値の追加)
attribute+=value を使用すると,属性に値が追加されます。これは,複数値属性だけに使用できます。既に設定されている値を追加すると,その属性に同じ値が 2 つ設定されます。
- (値の削除)
attribute-=value を使用すると,属性から値が削除されます。削除する値が存在しない場合は,pdset はそのコマンドを無視します。属性から最後の値を削除すると,pdset はその値をサーバに設定します。削除する値が属性に複数設定されている場合,pdset はその値のすべての出現を削除します。
= (省略時の値にリセット)
attribute== を使用すると,属性は省略時の値に設定されます。省略時の値にリセットする場合は,値を指定しません。
属性ファイルは,複数の attribute type=value の組を含む,ユーザ作成のファイルです。属性ファイルは,一般のテキスト・エディタを使用して作成します。属性ファイルの使用には以下の規則が適用されます。
属性ファイル内に記述できる 1 行の長さは最大 1024 文字。
属性ファイルの各行には 1 つまたは複数の文字列を記述することができるが,1 つの文字列を複数行にまたがって記述することはできない。
属性ファイルのパスが attribute_filename に指定されている場合,ユーティリティはそのファイルを使用する。パスが指定されていない場合は,PDPATH 環境変数が参照される。
コメント文字 (#) を使用すると,同じ行内でコメント文字の後に記述された情報はすべて無視される。
オペランドは,コマンドの実行対象となるオブジェクトを示します。たとえば,pdpr -p wiley cli.doc は,cli.doc というファイルを Wiley という論理プリンタで印刷します。本書では,オペランドは object_instance で表されます。
object_instance の構文および条件は,次のとおりです。
[server_name:]object_name
object_name に指定するオブジェクトは,コマンド行中の -c class_name オプションで指定したクラス,または省略時のクラスに属している必要があります。表 1-5 に,オブジェクト・クラスの一覧,および各クラスに関連するオペランドの定義を示します。
オブジェクト・インスタンスは,そのオブジェクトが関連付けられているサーバ名とそのオブジェクト自体の名前を使用して,[server_name:]object name と表すことがあります。このような場合は,次の規則が適用されます。
サーバ名を記述すると,指定したサーバ上の,指定した名前のオブジェクトが操作の対象となる。
サーバ名を省略すると,省略時のサーバ上の,指定した名前のオブジェクトが操作の対象となる。
コマンド行に複数のオペランドを記述する場合,ユーティリティによっては,その順番が重要な意味を持つことがあります。
オブジェクト・クラス | 定義 |
server |
操作の対象となるサーバの名前。 |
printer |
操作の対象となるプリンタの名前。 |
queue |
操作の対象となるキューの名前。 |
job |
操作の対象となるジョブを一意に識別するためシステムが割り当てた番号。 |
document |
操作の対象となるジョブを一意に識別するためシステムが割り当てた番号,および操作の対象となるジョブ内の特定のドキュメントの位置を識別するための番号。 |
initial value job |
操作の対象となる特定の initial-value-job の名前。 |
initial value document |
操作の対象となる特定の initial-value-document の名前。 |
環境変数にはシステムおよびサイト構成に固有の情報を格納できます。たとえば,省略時の値,ファイルの検索先のパス,数値,文字,および日付/時刻の書式情報,使用する言語などを環境変数に設定することができます。
環境変数の現在の値と異なる値をコマンド行で指定しない限り,CLI ユーティリティは,環境変数の現在値を省略時の値として使用します。表 1-6
に,その値によっては CLI の操作に影響を与える 4 つの環境変数を示します。
表 1-6: CLI 操作に影響する環境変数
変数 | 説明 |
NLSPATH |
CLI メッセージ・ファイルが標準ディレクトリにない場合,この変数の値がメッセージ・ファイルのパスとして使用される。 |
PDPATH |
この変数の値は,コロンで区切ったディレクトリ (パス) のリストから成り,-X attributes_filename オプションで指定されたファイルの検索が,リストの先頭のディレクトリから順にファイルが見つかるまで行われる。 |
PDPRINTER |
コマンド行で属性 printer-name-requested,またはオプション -p printer_name が指定されていない場合,この変数の値がプリント・クライアントの省略時のプリンタとして使用される。 このプリンタを保持するサーバが省略時のサーバと見なされるため,この変数は,サーバが指定されていない場合の操作対象サーバの選択にも使用される。 |