dupatch のベースライン処理では,システムにインストールされているファイルを調べて,それらがそこに存在すべきものと同じかどうかを比較し,システム・ファイル間で互換性の問題を発生させるようなパッチ・ファイルがインストールされるのを防ぎます。この項では,ベースライン処理の概要について説明します。ベースラインの設定方法については,2-2 項 「ベースラインの作成」を参照してください。
出所不明のシステム・ファイルは,たとえば次に示すように,標準的でない方法でシステム・ファイルのインストレーションが行われ,それによってファイルが置き換えられた場合に発生します。
システム管理に関するカスタマイズやパッチの手動インストールなど,システム・ファイルが手動でインストールされた場合
setld ユーティリティを使用して,ユーザが用意した setld サブセットからシステム・ファイルをインストールした場合
setldユーティリティを使用して,レイヤード・ソフトウェア製品のファイルをインストールした場合
不十分なシステム制御プログラム (通常は file.scp というファイル名) によって変更が発生した場合
標準のフル・インストレーションあるいはアップデート・インストレーション,または dupatch ユーティリティを使用して,root ユーザがインストールしたステム・ファイルを手動で削除した場合は,必要なシステム・ファイルがないという状態が発生します。このような場合,ファイルは削除されていますが,システム・インベントリにはそのファイルの情報が残っています。
出所不明なシステム・ファイルあるいはシステム・ファイルの欠落がある場合,適切な対処を行うまでパッチのインストールは実行できません。ただし,何らかの対処を行う前に,出所不明のファイル・システムが存在する理由,および,必要なファイルが欠落している理由を確認しておくことが重要です。これらの状態について正しく把握していない状態でシステムに変更を加えると,オペレーティング・システムあるいはレイヤード・ソフトウェアの環境が矛盾した状態になったり,場合によっては操作できない状態に陥る可能性があります。
たとえば,手動でインストールしたカスタマー固有パッチ (CSP) に含まれていたファイルの中にリリース・パッチには含まれていないものがある場合,リリース・パッチのインストレーションの障害になることも考えられます。そのようなファイルを削除すると,CSP の動作,あるいは場合によってはシステムの動作を混乱させることがあります。
dupatch のシステム・ベースライン機能を実行すると,/var/adm/patch/log/baseline.log ファイルにベースライン・ログが記録されます(ログ・ファイルについては付録 A 「ログ・ファイルの表示」を参照してください)。
システム・ファイルを手動でインストールした場合,あるいは,欠落したシステム・ファイルまたは出所不明のシステム・ファイルがあるためにパッチのインストールができないと dupatch が通知してきた場合は,システムにパッチ・ベースラインを設定することが必要になります。
ベースライン処理は 7 つのフェーズに分かれており,それぞれのフェーズでシステム情報が提供され,必要に応じてシステムのパッチ・ベースレベルを変更する処理を実行できます。ベースライン処理のすべてのフェーズを通して実行し,システムへの変更を行わずにシステムの分析を行うこともできます。root ユーザでログインしている場合は,マルチユーザ・モードでベースライン処理を実行することができます。
2-2-1 フェーズ 1 - システムの評価 |
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このフェーズの主な目的は,インストール済みのパッチ・キットに関連したシステム評価を実行することです。ベースライン機能は,すべての欠落したファイルあるいはすべての出所不明のファイルに関して報告するため,システム上の変更されているファイルの状態についてより正確に把握できます。
ベースライン処理の残りのフェーズでは,フェーズ 1 で集めた情報を使用して,パッチ・キットに含まれているパッチのインストレーションの障害となるシステムの矛盾点を報告します。
システムの状態を評価するのに必要な時間は,パッチ・キットのサイズ,ソフトウェア製品のバージョン,あるいはシステムの性能に依存して大きく変わります。
2-2-2 フェーズ 2 - レイヤード・プロダクトとの矛盾 |
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フェーズ 2 では,レイヤード・プロダクトによってインストールされたシステム・ファイルが原因で,インストールを実行できないパッチに関して情報を報告します。
レイヤード・プロダクトあるいはアプケーションのカスタマイズがパッチに含まれていることはまずありませんが,レイヤード・プロダクトのパッチ・インストレーション矛盾検出メカニズムの方がベースライン機能よりも優先します。レイヤード・プロダクトとの矛盾が存在するような状況でパッチのインストールを行うと,レイヤード・プロダクトあるいはアプリケーションを操作できない状態になることがあります。
このような状況が発生した場合は,そのレイヤード・プロダクトあるいはアプリケーションを担当するカスタマー・サービスにご相談ください。HP からビジネスクリティカルサービスを購入している場合は,HP サービスにご相談ください。
2-2-3 フェーズ 3 - 手動でインストールしたパッチの検出 |
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フェーズ 3 では,システム上に存在する既存ファイルのうち,システム・インベントリで installed と記されていないものがある場合そのファイルと正確に一致するパッチを報告します。たとえば初期のキットでは,TruCluster softwareのリリース・パッチは手動でインストールされていました。この場合,このフェーズでは,手動でインストールされたリリース・パッチ・ファイルのうち,dupatch 形式の最新の TruCluster softwareのパッチ・キットに含まれているパッチと正確に一致するパッチ・ファイルが報告されます。
dupatch でこれらのパッチを installed 状態に設定することもできます。この処理には,有効な setld データベース情報をシステムにコピーする処理も含まれます。dupatch ユーティリティは,適切な patch_subset.inv,patch_subset.scp,および patch_subset.ctrl ファイルを適切な場所にコピーします。
dupatch でこれらのパッチを installed 状態に設定したくない場合は,通常の dupatch インストレーションでパッチをインストールできるように,パッチ適用済みのシステム・ファイルを手動で削除しなければなりません。
2-2-4 フェーズ 4 - システム上の欠落ファイルあるいは出所不明ファイルの処理 |
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フェーズ 4 では,出所不明なシステム・ファイルおよび欠落しているシステム・ファイルについての情報を報告します。これらのファイルはシステムの動作を修正するために意図的にカスタマイズされたものと考えられるため,したがって,システム・ファイルがカスタマイズされた理由を理解することが重要です。
フェーズ 5 でパッチのインストレーションを有効にする前に,システムを意図的にカスタマイズした理由を理解し対処方法を決定できるよう,フェーズ 4 で報告された情報に関して手動によるシステム変更の記録を再確認してください。場合によっては,適切に動作するようにカスタマイズを削除する必要があるかもしれません。
場合によっては,適切に動作するようにカスタマイズを削除する必要があるかもしれません。
以下の各項で,意図的に手動でカスタマイズされたシステム・ファイルの発生に関して通常考えられる理由について,一般的なガイドラインを提供します。
2-2-4-1 カスタマー固有パッチの手動インストール
問題を報告した結果として,サービス担当者から手動でインストール可能な CSP を受け取る場合があります。CSP パッチは,ユーザが報告した問題の修正を提供するための一連のファイルを含んでいます。また,このパッチには,デバッグのための計測機能が含まれている場合もあります。
CSP の手動インストレーションによってシステムがカスタマイズされている場合,dupatch による出所不明なシステム・ファイルあるいは欠落ファイルの上書きを有効にする前に,その CSP で提供された修正が現在のリリース・パッチ・キットにも含まれていることを確認する必要があります。
手動でインストールされた CSP によって出所不明のファイルの存在あるいはファイルの欠落が発生している場合,次のいずれかの処理を実行してください。
フェーズ 5 で説明するパッチによってすべての CSP ファイルが置き換えられる場合は dupatch で欠落ファイルおよび出所不明ファイルを置き換えても問題ありません。
フェーズ 5 で説明するパッチでは置き換えられない CSP ファイルがある場合は,サービス担当者にご相談ください。
CSP がリリース・パッチ・キットに含まれているかどうかを確認するには,各リリース・パッチ・キットの 『Patch Summary and Release Notes』 を参照してください。パッチに関する Web 上のドキュメントについての情報は,「まえがき」を参照してください。
2-2-4-2 リリース・パッチの手動インストール
ソフトウェアによっては,手動でパッチのインストレーションを行うのが通常であるものもあります。たとえば,TruCluster software用のパッチは手動でインストールするのが通常でした。
dupatch による出所不明ファイルおよび欠落ファイルの置き換えを可能にする前に,手動でインストールされたリリース・パッチによって提供された修正が現在の dupatch 形式のリリース・パッチ・キットにも含まれているかどうかを確認する必要があります。確認ができたら,次の処理を行います。
出所不明のファイルあるいはファイルの欠落がリリース・パッチの手動インストレーションによるもので,これらのパッチが dupatch 形式の最新のリリース・パッチ・キットに含まれている場合は,該当する欠落システム・ファイルあるいは出所不明のシステム・ファイルを dupatch で置き換えるよう設定しても問題ありません。
出所不明のファイルあるいはファイルの欠落がリリース・パッチの手動インストレーションによるものではない場合は,フェーズ 4 で報告された情報に関して手動によるシステム変更の記録を確認してシステムを意図的にカスタマイズした理由を理解し,対処方法を決定できるように,欠落システム・ファイルあるいは出所不明のシステム・ファイルがどのような経緯で存在するのか把握しておく必要があります。
2-2-4-3 ユーザによるコマンドおよびユーティリティのカスタマイズ
業務で運用しているコンピューティング環境のシステム管理者は,定期的に Tru64 UNIX コマンドあるいはユーティリティをフリーウェアあるいは独自のカスタマイズ・コマンドやユーティリティと置き換えます。このようなシステムの場合,出所不明ファイルおよび欠落ファイルは,コマンド,ユーティリティ,あるいはその他のシステム・ファイルの意図的な置き換えによるものであることを理解しておく必要があります。
出所不明ファイルおよび欠落ファイルが,コマンド,ユーティリティ,あるいはその他のシステム・ファイルの意図的な置き換えによるものである場合,手動でインストールされたカスタマイズ・ファイルを dupatch で置き換えないようにしてください。カスタマイズの理由を確認して対処方法を決定してください。
2-2-5 フェーズ 5 - 変更されたシステム・ファイルを置き換えるための dupatch の設定 |
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フェーズ 5 では,欠落システム・ファイルあるいは出所不明システム・ファイルが原因でインストールできないパッチについて報告し,必要に応じて,dupatch ベースのパッチをインストールできるように dupatch 矛盾管理メカニズムを無視することができます。
欠落システム・ファイルあるいは出所不明システム・ファイルが原因でインストールできない各パッチに関して,次のような情報が表示されます。
パッチのインストレーションの障害となる出所不明のファイルおよび欠落しているファイルのリスト
パッチに含まれているその他のすべてのファイルの出所
必要に応じて,dupatch に矛盾検出メカニズムを無視させ,パッチをインストールすることも可能です。フェーズ 4 で表示された欠落システム・ファイルあるいは出所不明システム・ファイルに関する情報と,手動システム変更に関するシステム管理ログを使用して,フェーズ 5 でパッチのインストールを行うかどうか判断してください。
理由がわからない欠落システム・ファイルあるいは出所不明システム・ファイルがある場合は,dupatch でパッチのインストールは行わないでください。このような状況でインストールを行うと,オペレーティング・システムあるいは TruCluster software環境が矛盾した状態,あるいは動作不能な状態になる場合があります。
さらに,実際のパッチ・インストールの実行前に,オペレーティング・システムをバックアップすることもお勧めします。
2-2-6 フェーズ 6 - カスタマー固有パッチとインベントリとの矛盾の報告 |
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フェーズ 6 では,システムにインストールされている特定の CSP が原因で,インベントリの矛盾があるパッチについての情報が提供されます。この情報は,フェーズ 7 で決定を行う際に使用します。
2-2-7 フェーズ 7 - ファイルの適用可否の矛盾のあるパッチを有効にする |
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フェーズ 7 では,変更されたシステム・ファイルの出所が CSP である場合に,インベントリとインストールされているシステムが一致しないパッチのインストールが可能になります。
矛盾のあるファイルの出所を突き止めることができないと,オペレーティング・システムに影響が及ぶ可能性があります。このため,このようなファイルの出所を突き止めることをお勧めします。
この作業を支援するために,このフェーズでは,置き換えができないファイルとともに,インストールされたその他のファイルがリストされます。このフェーズを最後まで通して実行し,リストされたパッチのインストールを有効にせずに分析を行うことができます。
2-2-8 ベースライン処理を実行するための手順 |
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次の手順で,ベースライン処理を開始します。
root としてログインします。
dupatch を実行し,メイン・メニューの Enter your choice プロンプトに対して 5 を入力します。
Tru64 UNIX Patch Utility (Rev. 48-00)
==========================
- This dupatch session is logged in /var/adm/patch/log/session.log
Main Menu:
---------
1) Patch Kit Installation
2) Patch Kit Deletion
3) Patch Kit Documentation
4) Patch Tracking
5) Patch Baseline Analysis/Adjustment
h) Help on Command Line Interface
q) Quit
Enter your choice: 5 |
パッチ・キットの場所を入力します。
Enter path to the top of the patch distribution,
or enter "q" to get back to the menu [/patches/PK4/patch_kit]: |
この後,ベースライン処理によって,次のように 7 つのフェーズが通して実行されます。
ベースライン処理のフェーズ 1 では,パッチ・キットに関してシステムを評価します。
ベースライン処理のフェーズ 2 では,レイヤード・プロダクトによってインストールされたシステム・ファイルが原因で,インストールを実行できないパッチに関して情報を報告します。レイヤード・プロダクトによってインストールされたシステム・ファイルを置き換えるようなパッチをインストールするように dupatch を設定することはできません。レイヤード・プロダクトのカスタマー・サービスにお問い合わせいただくか,あるいはビジネスクリティカルサービスを購入されている場合は HP にお問い合わせください。
ベースライン処理のフェーズ 3 では,システム上に存在する既存ファイルと一致し,システム・インベントリで installed と記されていないものがある場合そのファイルと一致するパッチを報告します。これらのパッチを installed に設定するように dupatch に指示することが可能です。この処理には,有効な setld データベース情報をシステムにコピーする処理も含まれます。一致するものがある場合,次のようなプロンプトが表示されます。
Do you want to mark these patches as installed ? [y/n] |
このプロンプトに対して応答を入力します (省略時の値はありません)。
ベースライン処理のフェーズ 4 では,出所不明なシステム・ファイルあるいは欠落しているシステム・ファイルについて報告します。この情報は,パッチのインストレーションの妨げになる可能性があるファイルについて,その状態を理解できるように提供されます。
フェーズ 5 で説明しているように,各パッチに対するパッチ・インストレーション・チェックの結果を無視してパッチを適用する場合は,この情報を注意深く確認してください。
フェーズ 5 では,システムの現在の状態でインストレーション適用性テストをパスしなかったパッチが報告されます。システム・ファイルの欠落あるいは出所不明のシステム・ファイルがあると,これらのパッチのインストレーションは行われません。
dupatch ユーティリティは各パッチに含まれているファイルについての既知の情報を報告し,次のようなプロンプトで,インストレーションを実行するかどうかを尋ねます。
Do you want to enable the installation of any of these patches? [y/n]: |
パッチのインストレーションの障害になっているファイルの出所がはっきりするまでは,n を入力してください。リリース・パッチのインストレーションを妨げる原因となっているシステム・ファイルの変更は,CSP の手動インストール,あるいは,ユーティリティまたはファイルの意図的なカスタマイズなどの結果として発生します。
たとえば,リリース・パッチのインストレーションの妨げとなっているファイルが,CSP の一部として提供されるファイルの 1 つである場合,その後の対処について検討する必要があります。詳細については 2-2-4-1 項 「カスタマー固有パッチの手動インストール」 および 2-2-5 項 「フェーズ 5 - 変更されたシステム・ファイルを置き換えるための dupatch の設定」 を参照してください。
この質問に対して y と答えると,dupatch によってすべてのパッチのインストールが実行されます。
フェーズ 6 では,インベントリの矛盾のある CSP が報告されます。CSP によっては,元々のオペレーティング・システム・インベントリや,他のレイヤード・プロダクトのインベントリに含まれているファイルを置き換えるものがあります。インベントリの矛盾があると,CSP の完全性が損なわれる可能性があるため,dupatch ユーティリティは,このようなパッチのインストールを続行しません。
Press RETURN to see the list of patches...
* list of Customer Specific Patches with inventory conflicts:
-----------------------------------------------------------
- Tru64_UNIX_V5.1B / Kernel Patches:
Patch 26009.00 - SP05 OSFBASE540 (SSRT3631 SSRT3469 SSRT2439 ...)
- Files with Customer Specific Patch conflicts are:
./usr/sbin/cron is shipped by:
Product: "Tru64 UNIX V5.1B Patch Distribution"
(T64KIT0024386-V51BB25-20041206OSF540,06-Dec-2004:04:41:29)
Subset: OSFPATC0098100540
- Other file(s) within this patch, with their origin (identified
through checksum match) listed in terms of their translated
subset information, if any, are:
./etc/.new..magic
Base System
./etc/.new..nsswitch.conf
Tru64_UNIX_V5.1B Patch 26009.00
.
.
.
Press RETURN to proceed to the next phase... |
フェーズ 7 では,置き換えができなかった CSP またはレイヤード・プロダクトのファイルとともに,インストールされたその他のファイルがリストされます。
この項の確認を終えたら,これらのパッチのインストールを有効にすることができます。パッチを有効にするということは,パッチのインストールを選んだ場合に,そのパッチのインストール時に行われるパッチ・ファイルの適用可否のチェックが省略されるということです。
It is recommended that you understand the origin of the
listed files before enabling a patch for installation.
Press RETURN to see the list of patches...
OSFPATC0098100540 CONFLICTING FILE ./usr/sbin/cron
* Enabling a patch for installation means allowing to modify
these files. It is recommended that you understand the origin
of the listed files before enabling a patch for installation.
Do you want to enable the installation of these patches? [y/n]: y
*** Installation of the following patches is enabled:
(NOTE: You need to include these patches for installation
from the installation menu)
- Tru64_UNIX_V5.1B / Kernel Patches:
Patch 26009.00 - SP05 OSFBASE540 (SSRT3631 SSRT3469 SSRT2439 ...)
* Baseline Analysis/Adjustment process completed.
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Press RETURN to get back to the Main Menu... |