6    クラスタ・インターコネクトで使うための LAN ハードウェアの構成

この章では,LAN (ローカル・エリア・ネットワーク) ハードウェアをクラスタ・インターコネクトで使うための構成方法を説明します。扱う項目は以下のとおりです。

この章では,LAN ハードウェアをクラスタ・インターコネクトとして構成することに焦点を置いています。

6.1    構成のガイドライン

100 Mb/秒または 1000 Mb/秒 (ギガビット・イーサネット) の標準 LAN で動作するイーサネット・アダプタ,スイッチまたはハブであれば,LAN インターコネクトですべて動作します。

注意

FDDI (Fiber Distributed Data Interface),ATM LANE (LAN Emulation) および 10 Mb/秒のイーサネットは,LAN インターコネクトではサポートされていません。

イーサネット・ハードウェアをクラスタ LAN インターコネクトで使用する場合は,以下の条件が必要です。

6.2    イーサネット・スイッチ・アドレス・エージングを 15 秒に設定

イーサネット・スイッチでは,MAC (媒体アクセス制御) アドレス (および仮想 LAN (VLAN) 識別子)とポートを関連付けるテーブルを持っているので,パケットを効率よく転送することができます。これらの転送に関するデータ・ベース (別名ユニキャスト・アドレス・テーブル) を使うことで,動的に学習して得られた転送に関するデータを,古くなったとして無効にする時間間隔を設定できます。この時間をエージング・タイムと呼ぶことがあります。

LAN インターコネクトに関係しているすべてのイーサネット・スイッチでは,エージング・タイムは 15 秒に設定します。

設定しなかった場合,(NetRAIN フェイルオーバなどにより) MAC アドレスが別のポートに移動した後でもスイッチは指定の MAC アドレス向けのパケットを,転送テーブルにリストされたポートに対して間違って送信し続けることがあります。そのためクラスタ通信が中断され,1 つまたは複数のノードが削除されることがあります。その結果として,クォーラムの喪失により 1 つまたは複数のノードがハングし,たとえば次のようなパニック・メッセージが表示される場合があります。

 CNX MGR: this node removed from cluster
 
 CNX QDISK: Yielding to foreign owner
 

6.3    LAN インターコネクトの構成

TruCluster Server は現在,クラスタが LAN または Memory Channel のどちらを使用しているかに関係なく,最大で 8 メンバまでのクラスタをサポートしています。第 1 章に,Memory Channel または LAN インターコネクトを使ったクラスタの汎用的な構成例が載っています。以降の各項では,その章を補うかたちで,以下の LAN インターコネクト構成を説明します。

6.3.1    1 本のクロス・ケーブルで直接接続された 2 つのクラスタ・メンバ

図 6-1 に示すように,2 メンバで構成するクラスタでは,各メンバのイーサネット・アダプタどうしを 1 本のクロス・ケーブルで接続することによって,LAN インターコネクトを構成できます。この図に示されている IP アドレスについては,『クラスタ・インストレーション・ガイド』を参照してください。

図 6-1:  1 本のクロス・ケーブルで直接接続された 2 つのクラスタ・メンバ

注意

2 つのメンバの間にスイッチもハブも置かない場合は,それぞれのメンバのネットワーク・アダプタどうしを,ポイント・ツー・ポイントのイーサネット接続に使うクロス・ケーブルで直接接続する必要があります。

メンバから見ると,このクラスタは LAN インターコネクトの構成要素が冗長化されていない,つまり,どちらのメンバもイーサネット・アダプタが 1 つで,しかも 1 本のケーブルだけでこれらのメンバが接続されているので,LAN インターコネクトの接続が切断されると (たとえば,イーサネット・アダプタの保守やケーブルの接続外れ),そのメンバはクラスタから孤立することになります。しかし,このクラスタに 1 ボート (投票権) を持つクォーラム・ディスクを構成しておけば,メンバまたはクォーラム・ディスクのどちらかに障害が起こった場合や,LAN インターコネクトの接続が切断された場合でも,クラスタ自体は動作を維持できます。また,一方のメンバにボートを持たせ,もう一方のメンバにボートを与えないでおけば,非投票メンバか LAN インターコネクトの接続に障害が起こっても,クラスタは動作を維持できます。

この構成を拡張して 2 つのメンバの間にスイッチを追加することができます。スイッチは以下の場合に必要です。

6.3.2    イーサネット・スイッチを 1 つ使うクラスタ

2〜8 のメンバを 1 つのイーサネット・ハブまたはスイッチで接続してクラスタを構成することができます。3 つ以上のメンバで構成するクラスタでは,最適な性能を得るためにスイッチを使うことをお勧めします。

イーサネット・アダプタが複数個あるメンバでは,それらのアダプタを,LAN インターコネクト・インタフェースで使う NetRAIN セットとして構成できます。そうすれば,LAN インターコネクトへつながる内部接続が切断された場合でも,これらのメンバはクラスタ・メンバとして動作を維持することができます。

図 6-2 に示す 3 メンバ・クラスタでは,LAN インターコネクトに 1 つのイーサネット・スイッチを使っています。どのメンバのクラスタ・インターコネクトでも,2 つのネットワーク・アダプタで NetRAIN 仮想インタフェースが構成されています。図に示されている IP アドレスについては,『クラスタ・インストレーション・ガイド』を参照してください。

図 6-2:  イーサネット・スイッチを 1 つ使う 3 メンバ・クラスタ

それぞれのメンバが 1 ボート (1 票の投票権) を持っていると,1 つのメンバに障害が起こるか,メンバの LAN インターコネクト接続が 1 箇所切断されても (たとえば,イーサネット・アダプタの保守やケーブルの接続外れ),このクラスタは動作を維持できます。メンバから見ると,LAN インターコネクトの接続が 1 箇所切断されても,すべてのメンバが動作を維持することになります。ただし,スイッチの保守や障害の場合は,クラスタが動作しなくなります。6.3.1 項で推奨したクォーラム・ディスクを使う 2 メンバ構成でない限り,スイッチの障害がクラスタ全体のダウンの原因になります。したがって,図 6-2 に示すクラスタはお勧めできません。

6.3.3 項で説明するように,このクラスタに 2 つ目のスイッチを追加して,それぞれのメンバから両方のスイッチへ LAN インターコネクト・アダプタを接続すれば,スイッチに障害が起こってもクラスタ全体がダウンすることがなくなり,クラスタの信頼性を向上させることができます。

6.3.3    完全に冗長性のある LAN インターコネクト・ハードウェアを使うクラスタ

相互接続されているスイッチとそれぞれのメンバとの間に冗長性のあるパスを設定するとともに,NetRAIN を使用することで,完全に冗長性のある LAN インターコネクトを構成することができます。図 6-3図 6-4 に示す 4 メンバ・クラスタでは,それぞれのメンバで,2 つのイーサネット・アダプタが NetRAIN 仮想インタフェースとして構成されるとともに,2 つのスイッチが 2 本のクロス・ケーブルで相互接続されています。また,それぞれのメンバから出ているイーサネットがどちらのスイッチにも接続されています。

図 6-3:  リンク集約またはリンク復元を使う完全に冗長性のある推奨 LAN インターコネクト構成

図 6-4:  スパニング・ツリー・プロトコルを使う完全に冗長性のある推奨 LAN インターコネクト構成

注意

製造元の異なるスイッチを混在させて使う場合は,互換性について製造元に確認してください。

6.3.2 項で説明した 3 メンバ・クラスタのように,このクラスタは,1 つのメンバに障害が発生するか,メンバの LAN インターコネクト接続が 1 箇所切断されても (たとえば,イーサネット・アダプタの保守やケーブルの接続外れ),クラスタ全体はダウンしません (どのメンバも 1 ボート持ち,クォーラム・ディスクが構成されていない場合)。また,このクラスタは,スイッチの一方に障害が起こるかスイッチ間のクロス・ケーブルが切断されても,動作を維持することができます。

NetRAIN では,非アクティブな LAN インターコネクト・アダプタをスイッチ間にまたがって探査しなくてはならないので,スイッチ間のクロス・ケーブル接続が重要です。2 本のクロス・ケーブルを使うよう,強くお勧めします。図 6-3図 6-4 で示すように,2 本のクロス・ケーブルを使えば,1 本のクロス・ケーブルが使えなくなってもクラスタには分かりません。付録 B で説明していますが,スイッチ間でこのような並列リンクを使う場合は,スイッチで行えるスイッチ間のルーティング・ループ検出または回避方法を使用しなければなりません。これらの図では,スイッチで行える最も一般的な方法に適したポート設定が示されています。利用できる方法は,リンク集約 (ポート・トランキングとも言う),リンク復元,およびスパニング・ツリー・プロトコル (STP) です。リンク集約とリンク復元は図 6-3 に示されています。STP は図 6-4 に示されています。図の中の IP アドレスについての説明は,『クラスタ・インストレーション・ガイド』を参照してください。

構成によっては (たとえば,図 6-5 に示すように 1 本のクロス・ケーブルしか使わない非推奨の構成),クロス接続が切断されるとネットワークが分断されます。クロス接続が完全に切断されると,NetRAIN は,クロス接続を経由して非アクティブなアダプタへパケットを送信することができなくなります。このような状況になってもクラスタはダウンしませんが,NetRAIN セットにあるアダプタの間でフェイルオーバが行えなくなります。

たとえば,図 6-5 に示す構成では,メンバ 1 とメンバ 2 のアクティブな LAN インターコネクト・アダプタは,現在,スイッチ 1 に接続されています。一方,メンバ 3 とメンバ 4 のアクティブな LAN インターコネクト・アダプタは,現在,スイッチ 2 に接続されています。クラスタがこのような状態にあるときにクロス接続が切断されると,メンバ 1 とメンバ 2 は,お互いを認識できますが,メンバ 3 とメンバ 4 を認識できなくなります。その結果,メンバ 3 とメンバ 4 をクラスタから外してしまいます。一方,メンバ 3 とメンバ 4 は,お互いを認識できますが,メンバ 1 とメンバ 2 を認識できなくなります。その結果,メンバ 1 とメンバ 2 をクラスタから外してしまいます。仕様上は,こうなると,どちらのクラスタもクォーラム (必要な定足数) に足りません。3 ボート必要なうち,2 ボートしか持っていないからです。その結果,どちらのクラスタもクォーラム喪失でハングします。

図 6-5:  推奨できない LAN インターコネクトの冗長構成

スイッチを二重構成にしたクラスタでは,ネットワークの分断に対する耐性を高めるために,以下の手順の一部またはすべてを実行してください。

6.3.4    イーサネット・ハブを使用する構成

すべてのイーサネット・ハブ (つまりイーサネット・スイッチと区別するための共用ハブ) は,半二重モードで動作します。ハブを LAN インターコネクトで使用する場合,それに接続するイーサネット・アダプタを半二重モードで 100 Mb/秒に設定 (または自動折衝) しなければなりません (DE50x と DE60x ファミリのアダプタに関する詳細は,『クラスタ管理ガイド』を参照)。

LAN インターコネクトでのイーサネット・ハブの使用は,次のようにサポートされています。

イーサネット・ハブはイーサネット・スイッチとは異なり,ネットワーク・パーティションの障害を避けるために並列クロス・ケーブルを複数使用して構成することはできません。ハブにはルーティング・ループを検知し応答する機能がありません。

イーサネット・ハブは,その性能上小さなクラスタ (2 〜 3 メンバ) でのみ使用してください。

6.3.5    AlphaServer DS10L システムのクラスタ構成

LAN インターコネクトをサポートしたことで,HP AlphaServer DS10L のような基本的な AlphaServer システムも,クラスタ構成ができるようになりました。AlphaServer DS10L は,10/100 Mb/秒のイーサネット・ポート × 2,64 ビット PCI 拡張スロット × 1,内部固定 IDE ディスク × 1 の構成で出荷されるエントリ・レベルのシステムです。AlphaServer DS10L は,サイズが 44.7 × 52.1 × 4.5 cm (17.6 × 20.5 × 1.75 インチ (1U)) で,1 つの M シリーズ・キャビネットに多数搭載できるので,そのクラスタ構成は,アプリケーション (特に Web ベースのアプリケーション) にとって魅力的なオプションです。

AlphaServer DS10L をクラスタ構成にする場合は,1 つの PCI 拡張スロットを共用ストレージ (ここにクラスタ・ルート,メンバ・ブート・ディスク,オプションのクォーラム・ディスクを収容) のためのホスト・バス・アダプタに,また,イーサネット・ポートの 1 つを外部ネットワークに,そして,もう 1 つのイーサネット・ポートを LAN インターコネクトに,それぞれ使うことをお勧めします。図 6-6 に,4 台の AlphaServer DS10L で構成した,非常に基本的なローエンドのクラスタを示します。

図 6-6:  ローエンドの AlphaServer DS10L クラスタ

図 6-6 に示す構成は,コスト・パフォーマンスの高いエントリ・レベルのクラスタですが,LAN インターコネクトまたは共用 SCSI ストレージ・バスに障害が起こると,クラスタとして使えなくなります。

図 6-7 に示す構成では,こうした単一機器障害によるクラスタ全体のダウンを避けるために,2 台の AlphaServer ES40 がクラスタのメンバとして追加され,さらに,スイッチ間の接続が二重化されています。2 台の AlphaServer DS10L メンバは,イーサネット・ポートを経由して,LAN インターコネクトの一方のスイッチに接続され,別の 2 台はもう一方のスイッチに接続されています。前の構成にあった共用 SCSI ストレージは,冗長 Fibre Channel スイッチを使った Fibre Channel ファブリックで置き換えられています。

図では明確に示されていませんが,2 台の DS10L のホスト・バス・アダプタは一方の Fibre Channel スイッチに,また,別の 2 台の DS10L のホスト・バス・アダプタはもう一方の Fibre Channel スイッチに,それぞれ接続されています。

図 6-7:  AlphaServer DS10L と AlphaServer ES40 の両方をメンバとして含むクラスタ構成

2 台の AlphaServer ES40 メンバそれぞれにある物理的な LAN インターコネクト・デバイスは,NetRAIN 仮想インタフェースとして構成した 2 つのイーサネット・アダプタから構成されています。どちらの ES40 でも,一方のアダプタが最初のイーサネット・スイッチに,そして,もう一方のアダプタが 2 番目のイーサネット・スイッチにそれぞれケーブル接続されています。また,どちらの ES40 にも 2 つのホスト・バス・アダプタがあり,Fibre Channel ファブリックへ同じようにケーブル接続されています。つまり,一方のホスト・バス・アダプタが 1 番目の Fibre Channel スイッチに,また,もう一方のアダプタが 2 番目の Fibre Channel スイッチにそれぞれ接続されています。

このクラスタでボートを配分する方法は,以下に示すように何通りかあります。