この章では,オペレーティング・システムの新機能,前バージョンから大きく変更された機能,ソフトウェアおよびドキュメントに関する制限事項について説明します。
Tru64 UNIX Version 5.1B では,次のような機能が提供されています。
可変メモリ・ページ・サイズ (ビッグ・ページ) のサポート
IPv6 サポートに関する機能拡張
システム・ブート時に複数の SCSI および Fibre Channel バスを並行して走査する機能
LSM 高速プレックス・アタッチのサポート
セキュリティ機能の強化
Netscape 6.2.3 Web Client for Tru64 UNIX のサポート
国際化サポート機能の拡張
1.1 可変メモリ・ページ・サイズ (ビッグ・ページ) のサポート
ビッグ・ページ・メモリ割り当てにより,仮想メモリの 1 ページを 8,64,あるいは 512 ページの物理メモリへマッピングすることが可能になります。 既定の物理メモリのページ・サイズは 8-KB なので,仮想メモリの 1 ページに 64,512,あるいは 4096 KB をマップすることができることになります。 ビック・ページを使用することにより,変換バッファ・ミスによる性能上の不利益を最小限に抑えることができます。 これにより,大量のデータ・マッピングを行うアプリケーションの性能を改善することができます。
この機能により,アプリケーションの変更や再ビルドを行わないで,より大きなページ・サイズを利用することができます。 ビッグ・ページ・メモリ割り当てには次のような特性があります。
プロセスのアドレス・スペースにおける仮想ページを,システムの物理メモリがサポートする最も適切なマルチ・ページ密度にマップすることができます。
メモリ割り当て要求に対してページ・サイズの拡張を行うのが適切かどうかは,メモリ・タイプごとに設定されたしきい値によって判断されます。
省略時の設定では,可変メモリ・ページ・サイズの使用は無効になっています。
この機能を有効にする方法については,
sys_attrs_vm
(5)1.2 IPv6 機能拡張
本リリースでは,オペレーティング・システムに次のような IPv6 機能の拡張および変更が行われています。
IPv6 (Internet Protocol Version 6) 検索および分析ツール
このツールは,ファイルを検索して IPv6 への移行の際に注意すべき箇所を探すためのツールです。 このツールは,IPv4 用のソケットおよびオプションを探し,また,IPv4 名および IPv4 アドレス解決を探します。
詳細は
ipv6sniff
(8)
6to4 移行メカニズムのサポート
RFC 3056 に定義されているこのメカニズムにより,ホストあるいはサイトが単一のグローバル・ユニキャスト IPv4 アドレスから /48 IPv6 プレフィックスを導き出すことが可能になります。 この実装では,ホストおよび,より広範囲なゲートウェイ構成をサポートしています。 詳細は『ネットワーク管理ガイド:接続編』を参照してください。
IPv6 における汎用トンネリングのサポート
このトンネリング・メカニズムにより,どのようなタイプのトラフィックも IPv6 パケットにカプセル化することができます。 この機能の適用と構成の詳細については,『ネットワーク管理ガイド:接続編』を参照してください。
IPv6 拡張 API のサポート
このプログラミング・インタフェースにより,アプリケーションが拡張ヘッダなどの先進の IPv6 機能を利用することが可能になります。 詳細は『ネットワーク・プログラミング・ガイド』を参照してください。
パラレル・スキャニングは,ブート時間を短縮するための Tru64 UNIX Version 5.1B の新機能です。この機能は省略時の設定では無効になっています。この機能を使用するための設定については『ハードウェア管理ガイド』を参照してください。
SCSI および Fibre Channel バスのパラレル・スキャニングを有効にすると,システムはすべてのバスの走査を (1 つずつ順番にではなく) 同時に行います。この機能により,デバイスを検出する時間を短縮できます。多数のストレージ・デバイスを持つシステムでは,この機能によるブート時間の短縮は非常に大きなものになります。
1.4 LSM 高速プレックス・アタッチ (Fast Plex Attach: FPA)
ミラー化された LSM ボリュームに対し高速プレックス・アタッチ機能を使用して,バックアップのためにボリューム・データの一時コピーを作成することができます。 このテンポラリ・ボリュームを使用することにより,オリジナル・ボリュームは使用可能状態のままでバックアップを取ることができます。 この機能は, rootvol および cluster_rootvol を含め,スタンドアロンあるいはクラスタ・システムの任意のミラー・ボリュームに対して実行することができます。 ただし,スワップ領域として使用されているボリュームに対しては実行できません。 詳細は『Logical Storage Manager』を参照してください。
テンポラリ (セカンダリ) ボリュームは,オリジナルのミラー・ボリューム (プライマリ・ボリューム) についての,1 つの完全なプレックス (ミラー) から作成されます。
プライマリおよびセカンダリの両方のボリュームでは,ダーティ・リージョン・ログと同じように,各ボリュームの変更領域を追跡した高速プレックス・アタッチ・ログを使用します。
セカンダリ・ボリュームの作成に使用されたプレックス (ミラー・プレックス) がオリジナル・ボリュームに再アタッチされると,2 つの FPA ログがマージされます。
オリジナル・ボリュームとプレックスの同期を取ることによって,通常必要とされるよりも短時間で,オリジナル・ボリュームで変更された領域のみが,元に戻される (ミラー) プレックスに書き込まれます。
FPA ログにより,セカンダリ・ボリュームに対する変更を事実上破棄し,元に戻されるプレックスに対応するプライマリ・ボリュームのリージョンを書き込むことが可能になります。
1.5 ドメインの凍結によるメタデータの完全性の確保
freezefs
コマンドによりドメインがメタデータ一貫状態に入り,thawfs
コマンドによって凍結解除されるまでの間,あるいは凍結期間が終了するまでの間,メタデータの一貫性が保証されます。
この際,ドメイン内のすべてのファイルセットが凍結されます。
複数のボリュームあるいは論理ユニット (LUN) に渡って存在するすべてのメタデータはディスクに書き込まれ,凍結期間中は変更が行われません。
ファイルシステムを凍結した場合,処理中のすべてのファイル・システム操作を完了させることができます。読み取り操作など,メタデータの更新を必要としない一部のファイルシステム操作は,ファイルシステムが凍結されていても通常どおり実行できます。
一旦凍結されると,次のいずれかの理由でファイル・システムが凍結解除されるまでメタデータ一貫状態になります。
タイムアウト
thawfs
コマンドの実行
クラスタ環境における凍結ファイル・システムのいずれかのノードのシャット・ダウン,あるいはいずれかのクラスタ・メンバの停止
詳細は
freezefs
(8)1.6 vfast ユーティリティ
vfast
ユーティリティは継続的にファイルの断片化解消およびバランシングを行い,ドメインの各ボリュームに渡って空き領域の集約とファイル I/O の分散といった処理を,オペレーティング・システム・レベルにおいて低いオーバーヘッドで行います。このユーティリティは,頻繁にオープン/クローズが行われているファイルのみを処理します。このユーティリティはシステムの負荷が低い時に自動的に実行されるため,システム管理者によるシステムのオフライン操作は必要はありません。
vfast
は各ボリュームに対して空き領域のバランシングを行い,ファイル作成性能を向上させます。また,frag
ファイルおよび
root tag
ファイルを含め,すべてのアクティブ・ファイルの断片化を解消できます。この機能により,システム管理者が保守作業としてバランシングや断片化解消を行う必要がなくなります。
このユーティリティは,I/O 頻度の高いファイルをドメイン内の異なるボリュームへ分散させるために,AdvFS カーネルが収集したファイル I/O 統計値も使用します。
vfast
ユーティリティは保管されたファイルのアクセスにも配慮しますが,保管されたファイルの移動は行いません。
1.7 LUN/UNIT の拡張
既存のボリューム・サイズを大きくすることにより,ドメインで使用できるストレージの量を増やすことができます。 たとえば,LSM およびハードウェア RAID コントローラはボリュームのサイズを動的に増やす機能をサポートしています。
LSM あるいはハードウェア RAID ボリュームのサイズの増加は AdvFS とは独立して行われるため,ボリュームのサイズを変更した場合は
mount
コマンドに
-o
オプションを付けて実行し,ドメインに知らせる必要があります。
そのファイルセットがまだマウントされていない場合は,次のように入力します。
mount -o extend domain#fileset /mountpoint
ファイルセットがすでにマウントされている場合は,次のように入力します。
mount -u -o extend domain#fileset /mountpoint
非 LSM ボリュームに対しては,最初にディスク・ラベルを変更して追加ストレージを含める必要があります。
詳細は
disklabel
(8)
-o
オプションを使用すると,ドメイン内のすべてのファイルセットで追加ストレージを使用できるようになります。
1.8 セキュリティ
ここでは,オペレーティング・システムのセキュリティ機能に関する変更および拡張について説明します。
1.8.1 Secure Shell
Secure Shell は,一連のネットワーク・コマンドを提供するクライアント/サーバ型ソフトウェアで,Secure Shell コマンドによって交換されるすべてのデータに対して安全な接続を確立します。
Secure Shell コマンドは,従来のネットワーク・コマンドと混在させて使用することができます。 次の表に示すのは,Secure Shell コマンドと従来のネットワーク・コマンドの対応表です。
従来のコマンド | Secure Shell コマンド |
rsh |
ssh2 |
rlogin
または
telnet |
ssh2 |
rcp
または
ftp |
scp2
または
sftp |
1.8.2 オペレーティング・システム CD-ROM への Single Sign On の移動
Single Sign On (SSO) は Kerberos の技術を利用したオプションのクライアント/サーバ型ソフトウェアで,ftp
,rcp
,rlogin
,rsh
,および
telnet
などのネットワーク・コマンドと Kerberos を使用するアプリケーションに対して安全な接続を提供します。
SSO ソフトウェアが含まれている OSFSSOW2K540 サブセットは「Associated Products, Volume 2」CD-ROM から「Tru64 UNIX Operating System」CD-ROM へ移されています。このサブセットをインストールするためには,オプション・サブセットの一覧から選択する必要があります。
1.8.3 CDSA (Common Data Security Architecture)
CDSA は,Version 5.1 および Version 5.1A では Advanced Developers Kit として提供していましたが,本リリースではベース・オペレーティング・システムに組み込まれています。 CDSA は,以下のようなセキュリティ・サービスのインフラストラクチャを提供します。
公開されたサービス・プロバイダ API
セキイュリティ・プラグイン
CSSM (Common Security Services Manager)
詳細は
CDSA_intro
(3)1.8.4 /dev/random のサポート
本リリースでは,/dev/random
および
/dev/urandom
キャラクタ・デバイス・スペシャル・ファイルをサポートしています。
これらのファイルは,カーネル・ランダム番号生成機能へのインタフェースを提供します。
詳細は
random
(4)get_random_bytes
(9r)1.9 Netscape 6.2.3 Web Client for Tru64 UNIX
本リリースでは,Netscape Communicator と共に Netscape 6.2.3 Web Client for Tru64 UNIX を提供しています。Netscape 6 Web クライアントは,Netscape Communicator Web クライアントの後継となる次世代の Web クライアントです。
端末ウィンドウで次のコマンドを入力することにより,Netscape 6 Web クライアントを起動することができます。
# /usr/bin/X11/netscape6
Netscape 6 をシステムのデフォルトの Web クライアントとして設定するには,コンソール・プロンプトあるいは端末ウィンドウから特権ユーザとして次のスクリプトを実行してください。
# /usr/opt/netscape6/set_default_client
Netscape 6.2.3 Web Client for Tru64 UNIX についての詳細は,次の URL のリリース・ノートを参照してください。
file:/usr/doc/netscape6/release_notes.html
1.10 国際化サポート
本リリースでは次の新しい国際化機能が追加されています。
Unicode Version 3.1 のサポート
Unicode (ISO/IEC 10646) は,すべての主要なオペレーティング・システムおよび ISV によってサポートされる国際化文字セット標準です。 Unicode Version 3.1 は 2001 年 5 月に承認され,44,946 の新しい文字が追加され,94,140 文字で構成されています。新たに追加された文字のほとんどはアジア系の表意文字です。
新しい Unicode ロケール
すべての文字のワイド文字コードとして Unicode スカラ値を使用する新しい Unicode ロケールをサポートします。また,デフォルトの設定として Unicode あるいは dense コード・ロケールどちらを使用するかを簡単に切替えるためのメカニズムを提供しています。
Unicode および dense コード・ロケールの切替え方法の詳細は,『国際化機能ユーザーズ・ガイド』の 1.3 節を参照してください。
Unicode (UTF-8 ベース) ロケールのフォント・サポートの改善
中国語 (簡体字),中国語 (繁体字),韓国語,Phrase 入力メソッドのためのマルチリンガル入力サーバである
dxim
のサポート
詳細は
dxim
(1X)
その他,以下の新機能も提供します。
ATI RV200 AGP グラフィックス・カードのサポート
SDLT320 テープ・ドライブのサポート
このデバイスの構成方法については,5.3.1 項を参照してください。
POSIX スレッド・ライブラリの Version 3.20 へのアップグレード
このアップグレードには,多数のバグ修正と AlphaServer ES80 および AlphaServer GS1280 システムのサポートに必要な修正が含まれています。
Java Version 1.3.1 へのアップグレード
Java Version 1.1.8 は 「Associated Products Volume 2」CD-ROM の
Tru64_UNIX_Retired
ディレクトリに移されています。
Java 1.3.1 はデフォルトで Fast VM を使用します。
Fast VM は Classic VM よりも多くのメモリを使用するため,スワップ領域の不足に関するメッセージが出力される場合があります。
詳細は,Java のリリース・ノート (/usr/share/doclib/java/index.html
) を参照してください。
重要なシステム・デーモンの利用状況を監視する Essential Services Monitor デーモン (esmd
) のサポート
esmd
は Event Manager デーモン
evmd
,および Cluster Application Availability デーモン
caad
を監視します。
df
コマンドでの
-h
オプションのサポート
このオプションは,次のように人が理解しやすいフォーマットでディスク容量を表示します。
/dev/disk/dsk0a 252M 99M 128M 44% / /proc 0 0 0 100% /proc /dev/disk/dsk7e 2596M 734M 1602M 32% /usr var_domain#var 2637M 13M 2618M 1% /var
PCI デバイス通知 (indictment) 機能の限定サポート
KGPSA アダプタの PCI 通知 (indictment) 機能が AlphaServer GS80,GS160,GS320,ES45,および DS25 システムでサポートされます。
以前のリリースで一旦廃止された Bookreaderアプリケーション (dxbook
) が「Associated Products, Volume 2」CD-ROM の
Tru64_UNIX_Retired
ディレクトリに戻されています。