2    アジア系言語の入力システムと端末ドライバの使用

この章では,アジア系言語環境でのオペレーティング・システムの使い方について説明します。 また,次の作業の実行方法についても説明します。

この章では,アジア系言語環境のシステムを構成するために使用できるオペレーティング・システム・コマンドおよびユーティリティについて説明します。 スーパ・ユーザの特権を持っているシステム・マネージャまたは管理者の場合は,SysMan Menu の [ソフトウェア] 下にある,メニュー方式の国際化ソフトウェア構成ユーティリティを使うこともできます。 このユーティリティで利用できる構成オプションについては,1.2 節を参照してください。

オペレーティング・システムのドキュメント・セットには,アジア系言語環境でのオペレーティング・システムのテクニカル・リファレンスとユーザ情報を提供するマニュアルが 4 冊含まれています。 マニュアルのタイトルは,次のとおりです。

Tru64 UNIX のドキュメントは次の URL でアクセスできます:


http://h50146.www5.hp.com/products/software/oe/tru64unix/manual/

2.1    入力システムについて

Motif 環境では,アジア系言語入力システムが,オペレーティング・システムに用意されています。 この入力システムは,アルファベットのキーボードから文字や語句を入力し,キーボードからの入力を適切なアジア系言語の文字に変換して,その文字を X クライアント・アプリケーションに転送します。 アジア系言語の入力システムを利用する国際化アプリケーションの作成方法については,『国際化ソフトウェア・プログラミング・ガイド』を参照してください。 各入力システムの使用方法は言語に依存するため,その情報は前節で示したテクニカル・リファレンスや,各入力システムのオンライン・ヘルプに記載されています。

この節では,システム上で利用できる入力システムと,入力システムの起動方法について説明します。

アジア系言語の入力システムを使用するには,適切なロケールを設定し,前編集スタイル (対話型スタイル) を設定して,入力システム・サーバを起動しなければなりません。

ロケールの設定については,1.3 節を参照してください。

前編集スタイル (対話型スタイル) により,キーボードから文字を入力する際の入力システムとの対話方法が決まります。 つまり,アジア系言語の入力システム・サーバは通常,アジア系言語の文字を組み立てるために複数のキーストローク入力を必要とします。 この処理を,前編集といいます。 国際化アプリケーションが準拠する X 入力システム仕様では,以下の前編集スタイルが定義されています。

前編集スタイルを設定するには,-xrm オプションを指定して dtterm コマンドを実行します。 また,セッション・マネージャの [オプション] メニューを使って設定することもできます。 ただし,最も簡単な方法は,dtimsstart コマンドを使って次のように操作する方法です。

  1. コマンド行から /usr/dt/bin/dtimsstart と入力します。

  2. 適切なラジオ・ボタンをクリックして,前編集スタイルを選択します。

  3. [OK] をクリックします。

アプリケーション・ウィンドウが他のウィンドウによって隠れてしまう場合,アプリケーションで選択した入力スタイルによっては,前編集ウィンドウとステータス・ウィンドウが正しく再描画されません。 この問題を解決するには,アプリケーション・ウィンドウをクリックして,フォアグラウンド (フォーカスされた状態) にします。

Tru64 UNIX には,繁体字中国語と簡体字中国語 (Hanyu と Hanzi),日本語,および韓国語用の入力サーバが用意されています。 各入力サーバには,各言語に適した入力システムが 1 つ以上用意されています。 たとえば,簡体字中国語用の入力サーバには,入力スタイル 5-Stroke,5-Shape,Pin-Yin,Symbol,Telex コード,Qu-Wei,および Intelligent ABC 用の入力システムが用意されています。

入力サーバは独立したプロセスとして動作し,アプリケーションと通信して入力操作を処理します。 入力サーバは,リモートでもローカルでも実行できます。 入力サーバを開始し,入力システムを起動すると,選択された入力システムをサポートしている国際化 Motif アプリケーションは,入力サーバと通信できるようになります。

通常は,入力サーバを起動してからアプリケーションを起動しなければなりません。 ただし,Reconnectable リソースに True が設定されている XmText または XmTextField ウィジェットがアプリケーションに含まれている場合,アプリケーションはどちらが先に起動されたかにかかわらず,入力サーバに接続することができます。

個々の入力サーバは,コマンド行から起動できます。 または,日本語以外のアジア系言語の場合,dxim 入力サーバを使用することもできます。 dxim は,韓国語,繁体字中国語,簡体字中国語をサポートする,メニュー方式の入力サーバであり,同じロケールまたは別のロケールから入力システム・エンジンを切り替えることができる,単一プロトコルの語句入力システムです。

クライアント・アプリケーションが dxim に接続しており,文字の入力にキーボードを使っている場合,dxim 入力サーバが文字データを変換し,アプリケーションに送信します。 この変換は,英語から,繁体字中国語,簡体字中国語,または韓国語入力システム・サーバ・エンジン (それぞれ dxhanyuimdxhanziim,および dxhangulim) を使うアジア系言語へのものです。 dxim は,クライアントのロケールや,入力システム・サーバ・エンジン (クラスといいます),ユーザが起動したメソッドに基いて入力システムを選択します。

dxim 入力サーバは,Off-the-Spot と Root Window の前編集スタイルだけをサポートしています。 また,dxim の Phrase 入力は,オペレーティング・システムの Phrase ユーティリティとは異なります。 dxim の Phrase 入力サーバ・システムを使用すると,オペレーティング・システムの Phrase ユーティリティと同様の方法で文字や語句を入力できますが,dxim は Phrase ユーティリティの語句データベースはサポートしていません。

dxim 入力サーバには,以下の機能があります。

dxim 入力サーバは,異なるロケールで動作している複数のクライアント・アプリケーションをサポートできます。 クライアントが dxim に接続する際に,入力サーバはクライアントのロケールと,アクティブでクライアントが使用できる入力システムを判定します。 その後入力サーバは,適切な入力システムを使って,クライアントにサービスを行います。 ロケールによっては,dxim はアプリケーションに対し 1 つの入力サーバや入力システムに限定しないこともあります。 たとえば,ko_KR.eucKR ロケール下のアプリケーションは韓国語の文字だけを認識するため,韓国語の入力サーバに限定されます。 しかし,簡体字中国語と繁体字中国語の文字は互換性があるため,zh_TW.dechanyu 下のアプリケーションは,簡体字中国語または繁体字中国語の入力サーバ・システムを使用することができます。 dxim についての詳細は,dxim のオンライン・ヘルプ,または dxim(1X) を参照してください。

dxim の他に,各入力システム・サーバを個別に実行することもできます。 Tru64 UNIX では,次の入力システム・サーバを,各サーバがサポートする入力スタイルで利用できます。

これらのサーバには,それぞれリファレンス・ページがあり,各言語に対してテクニカル・リファレンスが用意されています。

ユーザが実行するアプリケーションでは,特定の入力サーバがサポートしている前編集スタイルより多くサポートしていることも,一部しかサポートしていないことも,全くサポートしていないこともあります。 前編集オプションの None は,アプリケーションがサポートしているすべての入力スタイルを入力サーバが拒否した場合に適用されます。

CDE では,セッション言語の選択時に,適切な入力サーバが自動的に起動されます。 入力サーバを手動で起動する際に適用される制約事項については,3.3 節を参照してください。 dxim の場合は,アクティブな入力サーバ・プロセスを停止してから dxim を起動しなければなりません。

プログラミングの際に,入力スタイルを指定したり,入力スタイルに優先順位を付ける方法については,『国際化ソフトウェア・プログラミング・ガイド』を参照してください。

2.2    キーボード入力モードの切り替え状態について

アジア系言語には多数の表意文字があり,文字数がキーボード上のキーの数を大きく上回っています。 そのため,アジア系言語では,入力システム (制御キー・シーケンス,キーパッド・キー・シーケンス,またはワークステーション・アプリケーションのオプションの組み合わせ) を使って,キーボードから直接入力できる文字 1 つまたは複数を,別の種類の文字に変換します。 アジア系言語の入力システムについては,2.1 節 と, dxim(1X)dxhanziim(1X)dxhanyuim(1X)dxhangulim(1X)dxjim(1X),および Thai(5) を参照してください。

キーボード上にモード切り替え LED (Light Emitting Diode) がある場合は,特殊入力モードのオン/オフ切り替えに応じて,ついたり消えたりします。

ワークステーションを使用しており,アジア系言語を設定しているときは,次のように -map オプションを指定してキーボード・インディケータ・アプリケーションを実行することにより,モード切り替え LED を画面上に表示できます。

% /usr/bin/X11/kb_indicator -map &

-map オプションを指定すると,モード切り替え LED をエミュレートする Motif アプリケーションが起動されます。 このアプリケーションのウィンドウには,入力モード状態に応じてオン/オフを示すボタンが 1 つ表示されます。 現在の言語設定で入力モードの切り替えがサポートされている場合,このボタンをクリックすることにより,入力モードを切り替えることができます。

キーボード・インディケータ・アプリケーションは,セッション中に 1 つしか実行できません。 このアプリケーションを停止するには,アプリケーションを起動したウィンドウで Ctrl/C を入力するか,次のような kill コマンドを入力します (process_id は,このアプリケーションのプロセス ID です)。

% kill -INT process_id

キーボード・インディケータ・アプリケーションを他の方法で停止させた場合,アプリケーションを正しく再起動できるように,このアプリケーションのサーバ状態を消去しなければなりません。 サーバ状態を消去するには,このアプリケーションを再起動する前に次のコマンドを入力します。

% /usr/bin/X11/kb_indicator -clear

使用する言語がヘブライ語に設定されている場合,キーボード・マネージャ・アプリケーション (/usr/bin/X11/decwkm) は,アジア系言語でのキーボード・インディケータ・アプリケーションと同等の機能を提供します。

2.3    アジア系言語用の端末インタフェース機能の使用方法

アジア系言語用の端末ドライバ (atty) とタイ語用端末ドライバ (ttty) は,非同期端末回線上で,英語と英語以外の言語の文字の入出力をサポートします。 これらのドライバのいずれか,あるいは両方がインストールされていれば,使用している言語に合った端末回線特性を設定できます。 ドライバのローカル言語機能は,次の端末構成でサポートされます。

これらの端末ドライバについては, atty(7)ttty(7) のリファレンス・ページを参照してください。

stty コマンドには,マルチバイト・コードセットと特殊文字の処理機能をサポートするように,次のような機能が追加されています。

この節では,stty コマンドを使用して,アジア系言語用の端末サブシステムに追加された機能を使用するための一般的な情報について説明します。

stty ユーティリティは,このユーティリティの標準入力であるデバイスの端末入出力特性の設定や報告を行います。 表 2-1 に,アジア系言語の回線規則を設定するための stty オプションを示します。

表 2-1:  端末回線規則を制御するための stty コマンド・オプション

stty オプション 説明
adec マルチバイト・データを扱えるように端末回線規則を設定し,中国語の簡体字 (Hanzi),繁体字 (Hanyu),および韓国語 (Hangul) のコードセットに合った処理環境を設定します。 このオプションは,STREAMS と BSD 端末ドライバの両方でサポートされています。
jdec マルチバイト・データを扱えるように端末回線規則を設定し,日本語のコードセットに合った処理環境を設定します。 このオプションは,端末コードを dec に,アプリケーション・コードを eucJP に設定します。 jdec オプションは,STREAMS と BSD 端末ドライバの両方でサポートされています。
tdec タイ語の文字を扱えるように端末回線規則を設定し,タイ語のコードセットに合った処理環境を設定します。 このオプションは,BSD 端末ドライバでのみサポートされます。
dec 端末回線規則を省略時または標準の tty 設定に戻し,stty コマンドで設定されている可能性のあるアプリケーションや端末コードの設定を解除します。 このオプションは,STREAMS と BSD 端末ドライバの両方でサポートされています。

注意

カーネル・デバッグのためのコンソール・セットアップから (KDEBUG ドライバ実行中),端末回線規則を jdec あるいは adec に設定しないでください。 これらの値を設定するとコンソールがハングする場合があります。

stty コマンドでは,特定のロケールをサポートする端末回線規則を変更する前に,適切なロケール設定が有効になっていなければなりません。 たとえば,韓国語を扱えるような端末回線規則を設定するには,次のように入力します。

% setenv LANG ko_KR.deckorean
% stty adec

端末回線規則を tty の省略時の設定に戻すには,次のように入力します。

% stty dec

注意

端末回線規則が省略時の tty 設定になっておらず,別の非省略時オプションに切り替えたい (たとえば,jdec から adec に切り替える) ときは,まず stty dec コマンドを入力して,新しい設定に適していない可能性があるすべてのアプリケーションや端末特性の設定を解除します。 次の例は,端末回線規則を,現在の設定の adec から jdec に切り替えます。

% stty dec
% stty jdec

-a オプションあるいは -all 引数を指定して stty コマンドを実行すると,現在の端末回線規則の設定が次のように表示されます。

% stty adec
% stty all
atty disc;speed 9600 baud; 24 rows; 80 columns
erase = ^?; werase = ^W; kill = ^U; intr = ^C; quit = ^\; susp = ^Z
dsusp = ^Y; eof = ^D; eol <undef>; eol2 <undef>; stop = ^S; start = ^Q
lnext = ^V; discard = ^O; reprint = ^R; status <undef>; time = 0
min = 1
-parenb -parodd cs8 -cstopb hupcl cread -clocal
-ignbrk brkint -ignpar -parmrk -inpck -istrip -inlcr -igncr icrnl -iuclc
ixon -ixany -ixoff imaxbel
isig icanon -xcase echo echoe echok -echonl -noflsh -mdmbuf -nohang
-tostop echoctl -echoprt echoke -altwerase iexten -nokerninfo
opost -olcuc onlcr -ocrnl -onocr -onlret -ofill -ofdel tabs -onoeot
-odl lru size=256
-sim key= class=
tcode=dec acode=deckanji

スーパユーザは,wwconfig コマンドを使用するか,SysMan Menu から国際化ソフトウェア構成ユーティリティを使用して,次の作業を行うことができます。

詳細については, wwconfig(8),または国際化ソフトウェア構成ユーティリティのオンライン・ヘルプを参照してください。

2.3.1    アプリケーション・コードセットと端末コードセット間の変換

多くの端末は,1 つのコードセットだけしかサポートしていません。 複数のコードセットに基づいているロケール (特にアジア系言語用のロケール) で,1 種類の端末を使用してアプリケーションを実行する必要がある場合には,このことが問題になります。 そのため,atty ドライバには,アプリケーションが使用するコードセットと,端末がサポートするコードセット間の変換を行うメカニズムが用意されています。 コードセットの変換は,stty コマンドのオプションを使用して制御します。

stty コマンドの adecjdec,および dec オプションは,HP の端末とワークステーションに適した端末コードとアプリケーション・コードを設定します。 HP の端末およびワークステーションの標準コードセットをサポートしない日本語端末からログオンするときは,tcode オプションを明示的に指定する必要があります。

表 2-2 に,端末コードとアプリケーション・コードを明示的に設定する stty オプションを示します。

表 2-2:  アプリケーション・コードと端末コードを明示的に設定する stty オプション

stty オプション 説明
acode codeset アプリケーション・コードを codeset に設定します。
tcode codeset 端末コードを codeset に設定します。
code codeset 端末コードとアプリケーション・コードの両方を codeset に設定します。
conv (-conv) 内部コードと,端末コードまたはアプリケーション・コードの間の,コードセット変換を有効または無効にします。 アジア系端末機能を動作させるためには,コードセット変換を有効にしておく必要があります。

次のコマンドを使用すると,Shift JIS (日本のパーソナル・コンピュータ市場で広く使用されているコードセット) だけしかサポートしていない端末でも,DEC Kanji を使用するアプリケーションを実行できます。

% stty acode deckanji tcode SJIS

サポートされているアプリケーション・コードセットと端末コードセットについては,オペレーティング・システムのドキュメント Web サイト ( http://h50146.www5.hp.com/products/software/oe/tru64unix/manual/) のプログラミング関連ドキュメントとして掲載されている,アジア系言語機能に関するテクニカル・リファレンス・ガイドに詳細な説明があります。

2.3.2    マルチバイト文字をサポートするコマンド行編集

この項では,システムにアジア系言語サポートがインストールされているときに,コマンド行編集を有効にして,使用するための方法を説明します。

端末回線規則と端末コードセット特性が,マルチバイト・コードセットに適したものに設定されている場合,atty ドライバは,これらのコードセットでサポートされる言語に適した形でコマンド行編集を処理します。 たとえば,文字を削除する制御シーケンスを入力すると (制御シーケンスは定義されているものとします),その文字の占めるバイト数に関係なく,文字全体が削除されます。 シングルバイトの文字とマルチバイトのアジア系言語文字の両方が同じ行にある場合でも,どちらの文字も削除できます。

単語にシングルバイト文字とマルチバイト文字の両方が含まれている場合でも,単語を削除できます。 atty ドライバは,シングルバイトのスペース文字,2 バイトのスペース文字 (端末コード設定が対応している場合),あるいはタブ文字を単語の区切り文字として受け付けます。

stty コマンド行オプションの erasewerase により,文字と単語を削除するための制御シーケンスを定義できます。

% stty erase [Ctrl/H]
% stty werase [Ctrl/J]

この例では,Ctrl/H がカーソルの前の文字を削除し,Ctrl/J がカーソルの前の単語を削除します。

履歴モードはコマンド行編集モードの 1 つであり,前に入力したコマンドを再実行したり,オプションとして変更することができます。 ここで説明している履歴モードの実装は,日本語,中国語,韓国語の入力のためにカスタマイズされたもので,BSD 端末ドライバだけでサポートされます。 表 2-3 に,これらの言語での履歴モード編集をオン/オフするための stty オプションを示します。 タイ語での履歴モード編集を制御する stty オプションについては,表 2-6 を参照してください。

表 2-3:  atty で履歴モードのオン/オフを行う stty オプション

stty オプション 説明
history key 履歴メカニズムの切り替えキーを設定し,履歴メカニズムをオンにします。
-history 履歴メカニズムをオフにします。

atty ドライバは,最大 32 個のコマンドと,コマンドごとに最大 127 文字の履歴を保持できます。 表 2-4 に,履歴 key を入力した後でコマンド行の編集が行えるコマンドを示します。

表 2-4:  履歴モードにおけるコマンド行編集

コマンド/キー 説明
Ctrl/A 行頭に移動します。
Ctrl/D カーソル位置の文字を削除します。
Ctrl/E 行末に移動します。
上矢印 履歴リスト内の前に入力したコマンド行を呼び出します。
下矢印 履歴リスト内の次のコマンド行を呼び出します。
左矢印 カーソルを左に 1 文字だけ移動します。
右矢印 カーソルを右に 1 文字だけ移動します。
erase_sequence カーソルの前の文字を削除します。
werase_sequence カーソルの前の単語を削除します。

表 2-4erase_sequence および werase_sequence のコマンド・キーは,それぞれ stty のオプション -erase と -werase によって定義された制御シーケンスです。

履歴モードでコマンド行を編集するときは,次の手順に従って文字を挿入します。

  1. 矢印キーを押して,文字を挿入したい位置のすぐ右にカーソルを移動します。

  2. 挿入したい文字を入力します。

"kill","interrupt",または "suspend" を表す制御文字を入力した場合,tty ドライバは履歴モードを抜け,編集中のコマンド行を取り消します。

2.3.3    かな漢字変換: 日本語入力オプションのカスタマイズ

日本語では,母音などの特定の言語要素を複数の文字で表現できます。 これらの文字は,表音文字と表意文字の両方の読みを持つことがあります。 さらに,一部の表音文字は,2 カラム幅と 1 カラム幅のいずれでもプリントできます。 次の表に示す文字クラスには,それぞれ異なった入力方式が必要になります。

文字クラス 説明
漢字 表意文字
ひらがな 表音文字
カタカナ 表音文字,カタカナには全角 (2 カラム幅) と半角 (1 カラム幅) の形式があります。 1 カラム形式のカタカナは半角と呼ばれます。

日本語のユーザは,1 つのセッションで,漢字や,ひらがな,カタカナをさまざまに組み合わせて使用します。 そのため,ユーザは,入力する文字に合わせて端末入力モードをカスタマイズできなければなりません。 入力デバイスがワークステーションではなく JIS 端末の場合,ユーザはソフトウェアで回線規則と端末コード設定を調整して,ハードウェア機能 (たとえば,端末が 7 ビットと 8 ビットのいずれのエンコーディングを使用しているか) に合わせる必要があります。

tty ドライバは,かな漢字変換と呼ばれるメカニズムをサポートしています。 かな漢字変換とは,表音文字と表意文字間の変換のことで,入力する日本語文字を効率的に選択するための,キーボード入力シーケンスを提供します。 ユーザは stty コマンドを使用して,かな漢字変換機能や,その他の日本語入力サポート機能をオン/オフできます。 表 2-5 に,日本語入力をサポートする stty オプションを示します。 特に明記されていなければ,これらのオプションは jdec オプションと組み合わせて使用します。 たとえば,次のコマンドは日本語文字のエンコーディングをサポートする端末回線規則を設定し,かな漢字変換をオンにします。

% stty jdec ikk

表 2-5:  日本語入力をオンにしてカスタマイズするための stty オプション

stty オプション 説明
clause mode

かな漢字変換後の文節を示す文字属性を設定します。

mode 引数は,boldunderlinereverse,または none のいずれかです。

esc.alw

改行文字が出力されたときに,端末状態を "shift out" に変更します。

このオプションは,sttytcode (端末コード) オプションが jis7 または jis8 に設定されている場合にのみ適用されます。

-esc.alw

改行文字が出力されたときは,現在の端末状態を変更しません。

このオプションは,sttytcode (端末コード) オプションが jis7 または jis8 に設定されている場合にのみ適用されます。

henkan mode

かな漢字変換の変換領域を示す文字属性を設定します。

mode 引数は,boldunderlinereverse,または none のいずれかです。

ikk

日本語入力機能をオンにします。 かな漢字変換デーモン kkcd が実行していなければ,起動します。 cbreak モードの BSD 端末ドライバでは,ikk オプションを使用する前に jx オプションを指定して,日本語入力機能をオンにします。 STREAMS 端末ドライバでは,ikk オプションの前に jinkey オプションを指定します。

省略時の設定では,キーマップ情報は,次のファイル (優先順位の高いものから順に示します) から取得されます。

  1. stty コマンドの kkseq オプションで指定されたファイル

  2. 環境変数 JSYKKSEQ で指定されたファイル

  3. ファイル $HOME/.jsykkseq

日本語入力機能用の省略時のキーマップ・ファイルは,ディレクトリ /usr/i18n/skel/ja_JP にあります。

日本語入力機能で使用される辞書は,次に示すファイル (優先順位の高いものから順に示します) から取得されます。

  1. 環境変数 JSYTANGOJSYKOJIN,および JSYLEARN で定義されたファイル

  2. 辞書ファイル /usr/i18n/jsy/jsytango.dic$HOME/jsykojin.dic,および $HOME/jsylearn.dic

-ikk 日本語入力機能をオフにして,かな漢字デーモン kkcd を終了します。
jinkey sequence STREAMS ドライバで使用される拡張日本語入力機能を起動するエスケープ・シーケンスを定義します。 このオプションのパラメータは,複数の文字でもかまいません。
imode mode

端末回線規則が dec に設定されているときは,8 ビット・コードや半角カナ (1 カラム幅) のコードに対応するモードを設定します。 mode 引数は,次のキーワードのいずれかです。

  • kanji,8 ビット・コードを漢字コードの一部として扱う。

  • hiragana,8 ビット・コードを 2 カラム幅のひらがなコードに変換する。

  • katakana,8 ビット・コードを半角 (1 カラム幅) のカタカナ・コードに変換する。

  • hankaku,8 ビット・コードを半角カナ (1 カラム幅) のコードとして扱う。

jx character BSD 端末ドライバで使用される拡張かな漢字変換モード (cbreak) に入るための,切り替え文字を設定します。 日本語入力オプションを完全にはサポートしていない dbx などのユーティリティを使用するときは,cbreak モードに入ります。
-jx 拡張かな漢字変換モードに入るための切り替え文字の定義を解除します。
kin esc_sequence JIS コード端末用に JIS 漢字の "shift in" エスケープ・シーケンスを設定します。
kkmap 現在のかな漢字変換用のキーマップを表示します。 最大 15 文字までのキー・シーケンスがツリー状に表示されます。
kkseq file 端末のかな漢字変換キーマップ・ファイルを設定します (ikk オプションの項目も参照してください)。
knj.bsl 1 つの後退文字を使用して,漢字 1 文字を消去します。
-knj.bsl 2 つの後退文字を使用して,漢字 1 文字を消去します。
knj.sp 2 バイトの全角空白文字を使用して,漢字 1 文字分の空白をとります。
-knj.sp 2 つの ASCII 文字を使用して,漢字 1 文字分の空白をとります。
kout esc_sequence JIS コード端末用に JIS 漢字の "shift out" エスケープ・シーケンスを設定します。

DEC 漢字では,すべての ASCII 文字は,シングルバイトの 7 ビット値として表されます。 つまり,ASCII 文字を表すバイトは,最上位ビット (MSB) が必ずオフです。 Tru64 UNIX 上の Unicode 変換では,Japanese_UCS コンバータ (deckanjisdeckanjiSJIS,および eucJP) は,下位 7 ビットの値を ASCII として扱います。

2.3.4    タイ語の端末サポート

タイ語端末は,BSD プロトコルを使用する ttty 端末ドライバによってサポートされています。 タイ語端末を使用する場合,端末の回線規則を tdec にしなければなりません。 例を次に示します。

% stty tdec
 
 

タイ語端末で stty コマンドがサポートするその他の設定を,表 2-6 に示します。

表 2-6:  タイ語端末の stty オプション

stty オプション 説明
isc mode Wototo ISC (Input Sequence Check) のモードを設定します。 モードの値には,0 (そのまま渡す),1 (基本),3 (厳密) のいずれかを指定します。 このオプションはタイ語履歴モードでは使用されません。
reorder (-reorder) 入力の再編成を有効または無効にします。 このオプションはタイ語履歴モードでは使用されません。
thistory key (-thistory) タイ語履歴メカニズムを有効または無効にします。 key は,タイ語履歴モードのオン/オフを切り替えるために使用するキーです。 長さが 3 文字未満の行は履歴リストに記録されません。 タイ語履歴モードが有効なときに使用できるコマンド行の編集オプションは,表 2-4 で述べたオプションと同じです。

これらのオプションについての詳細は, ttty(7) を参照してください。