1    TruCluster Server の概要

TruCluster Server バージョン 5.1B を使用すると,HP Tru64 UNIX オペレーティング・システム・ソフトウェア,複数の AlphaServer システムおよびストレージ・デバイスを高度に統合して,単一の仮想システムとして動作させることができます。クラスタのメンバは,リソース,データ・ストレージ,クラスタ単位のファイル・システムを単一のセキュリティと管理ドメイン下で共用できるだけでなく,クライアントに対するクラスタのサービスを停止することなく個別にブートまたはシャットダウンできます。

TruCluster Server 環境は,必要に応じて,簡単なものにも,機能が豊富なものにもすることができます。必要に合わせて,2 〜 8 ノードのクラスタを構成できます。このクラスタでは,トランザクション処理システム,ネットワーク・クライアント/サーバ・アプリケーションのサーバ,高可用性を必要とするデータ共用アプリケーション,TruCluster Server のアプリケーション・プログラミング・インタフェース (API) の利点をフルに活用する分散型並列処理アプリケーションなどの高可用性アプリケーションが実行できます。

TruCluster Server にはインターネット・プロトコル群 (TCP/IP) のクラスタ別名が含まれているため,クラスタはネットワーク・クライアントおよびピア・システムからは単一のシステムとして認識されます。

この章では,次の事項について説明します。

1.1    バージョン 5.1B で新しく追加された機能と変更された機能

以下は,TruCluster Server バージョン 5.1B で新しく追加された機能と変更された機能です。各項目には,その機能に関して説明している TruCluster Server のマニュアル,本書中の節,またはリファレンス・ページも合わせて記載しています。

1.2    TruCluster Server の機能

TruCluster Server バージョン 5.1B の機能を表 1-1 に示します。

表 1-1:  TruCluster Server バージョン 5.1B 製品の機能

機能 説明
クラスタ単位のネームスペース

クラスタ・ファイル・システム (CFS) は,クラスタ単位の単一のネームスペースをサポートし,統一された方法でクラスタ内の全ファイル・システムへアクセスできるようにする。システムごとの構成と,共用 CFS ルート (/),/usr/var ファイル・システム内のデータ・ファイルの保持には,コンテキスト依存シンボリック・リンク (CDSL) が使用される。

CFS についての詳細は,2.2 節を参照。CDSL についての詳細は,2.5 節を参照。

ディスクおよびテープ・ストレージへのクラスタ単位のアクセス

デバイス要求ディスパッチャ機能により,テープ・デバイス,文字型ディスク・デバイス,およびブロック型ディスク・デバイスに対して,可用性の高い,クラスタ単位のアクセスが可能。クラスタのディスク入出力およびテープ入出力は,すべてデバイス要求ディスパッチャを通して渡される。

デバイス要求ディスパッチャについての詳細は,2.3 節を参照。

クラスタ単位の LSM (Logical Storage Manager)

LSM のセマンティクスが,クラスタ環境に拡張されている。

クラスタ環境での LSM についての詳細は,2.8 節を参照。

接続マネージャ

接続マネージャは,すべてのクラスタ・メンバ間の通信を確保し,クラスタの形成と継続されている操作を制御する。接続マネージャはクォーラムに必要なボートを計算し,メンバをクラスタへ追加する時期やクラスタから削除する時期を決定する。

接続マネージャについての詳細は,第 3 章を参照。

CAA (Cluster Application Availability)

CAA 機能により,リソースのモニタリングとアプリケーションの再起動が可能となる。この機能では,TruCluster Available Server Software および TruCluster Production Server Software 製品のユーザ定義サービスで提供される可用性と同様のアプリケーションの可用性を実現できる。

クラスタ内で実行できるアプリケーションのタイプの定義については,第 4 章を参照。シングル・インスタンス・アプリケーションの可用性を高めるための CAA の役割については,第 5 章を参照。

クラスタ別名

クラスタ別名サブシステムを使用すると,TCP アプリケーションおよび UDP アプリケーションで,クラスタを単一のシステムとしてアドレス指定できるようになる。クラスタを作成すると,すべてのクラスタ・メンバを宛先とする,省略時のクラスタ別名が定義される。クラスタ・メンバの一部またはすべてを宛先とする別名を,サイトで追加定義することもできる。

クラスタ別名についての詳細は,第 6 章を参照。

クラスタ別名を使用した,高可用性 NFS (ネットワーク・ファイル・システム) サーバ

出荷時には,クラスタは高可用性 NFS (ネットワーク・ファイル・システム) サーバである。CFS を使用することにより,TruCluster Server クラスタがエクスポートするファイル・システムは,クライアントに対する可用性が高くなる。省略時の設定では,クライアントは,クラスタがエクスポートしたファイル・システムをマウントする際に,省略時のクラスタ別名を NFS サーバ名として使用する。ただし,クライアントは,/etc/exports.aliases ファイルに定義されている別名を使用することもできる。

詳細については,6.11 節を参照。

クラスタ別名を使用した,高可用性インターネット・サービス

クラスタは,telnetftp など多くのインターネット機能を高可用性サービスとして,出荷時からサポートしている。これらのサービスは,/etc/clua_services ファイルに in_multi サービスとして指定されており,これらサービスに送られてくるパケットや要求は,クラスタ別名サブシステムが,そのときに対応可能なクラスタ・メンバへ振り分ける。こうした処理はクラスタ別名サブシステムが行うように設計されており,サービス側は何もする必要がない。

マルチ・クラスタ・インターコネクト

TruCluster Server バージョン 5.1B ではクラスタのインターコネクトに Memory Channel またはローカル・エリア・ネットワーク (LAN) ハードウェアを使用することができる。

Memory Channel インターコネクトは,クラスタの要件に合うように設計された高速のインターコネクトである。

TruCluster Server には,Memory Channel アプリケーション・プログラミング・インタフェース (API) ライブラリがある。これは,TruCluster Production Server Software 製品で提供されている API と同じである。

LAN クラスタ・インターコネクトは,新しいクラスタを構成したり既存の TruCluster ASE クラスタをアップグレードする際に,Memory Channel の代わりとして使用できる。

LAN および Memory Channel のインターコネクトについての詳細は,第 7 章を参照。Memory Channel API についての説明は,『クラスタ高可用性アプリケーション・ガイド』を参照。

分散ロック・マネージャ (DLM)

TruCluster Server は,DLM とその API をサポートしている。この API は,TruCluster Production Server Software 製品で提供されている API と同じである。

DLM についての説明は,第 8 章を参照。DLM API についての説明は,『クラスタ高可用性アプリケーション・ガイド』を参照。

単一のシステム管理

クラスタでは CFS を使用しているため,すべてのメンバ・システムの構成ファイルを管理することができる。SysMan のグラフィカル管理ユーティリティ群によってクラスタ環境を統合して表示することができ,単一のメンバを管理することも,クラスタ全体を管理することもできる。

クラスタのインストレーションおよび管理の概要は,第 9 章を参照。

ローリング・アップグレード TruCluster Server バージョン 5.1B は,ローリング・アップグレードをサポートしている。 ユーザは,クラスタの TruCluster Server バージョン 5.1A から バージョン 5.1B へのローリング・アップグレードを行うことができる。 詳細は,第 9 章を参照。
ファイル・システムのパーティショニング

CFS では,AdvFS ファイル・システムをマウントして単一のクラスタ・メンバだけがアクセスできるようにすることができる。 この機能を,ファイル・システムのパーティショニングと呼ぶ。

TruCluster Server にはファイル・システムのパーティショニング機能があり,TruCluster Production Server Software や TruCluster Available Server Software バージョン 1.5 またはバージョン 1.6 からの移行が容易である。 ファイル・システムのパーティショニングは,ファイル・システムのアクセスを単一メンバに制限する汎用機能としては作られていない。

詳細は,『クラスタ管理ガイド』 および mount(8) を参照。

単一のセキュリティ・ドメイン

クラスタは CFS を使用しているため,/etc/passwd/etc/group などのセキュリティ管理ファイルは 1 つだけ存在する。 1 つのメンバで認証されたユーザは,すべてのメンバにアクセスできる。 また,1 つのメンバ上の特定のファイルにアクセス可能なユーザは,どのメンバからでもそのファイルにアクセスできる。 アクセス制御リスト (ACL) は,すべてのメンバから同じように使用できる。

詳細は,Tru64 UNIX 『セキュリティ管理ガイド』 を参照。

拡張プロセス ID (PID) PID は,32 ビットをすべて使用する値まで拡張される。 また PID は,クラスタ全体で一意である。 各クラスタ・メンバには,PID として割り当てられる番号の範囲がある。