本書では,TruCluster Server 製品をインストールして構成する方法を説明します。
インストレーションを開始する前に本書に目を通し,インストールするタイプに関連した章をよくお読みください。 一般的なインストール手順に慣れておくと,時間の節約になるだけでなく,問題の発生も防止できます。
SysMan を使って TruCluster Server 製品またはレイヤード・プロダクトをクラスタにインストールまたはアンインストールすることはできません。その代わり,本書および 『クラスタ管理ガイド』に記載されている手順を使用してください。
クラスタ・インターコネクトとして Memory Channel またはローカル・エリア・ネットワーク (LAN) ハードウェアを使用することができます。『クラスタ・ハードウェア構成ガイド』に,Memory Channel または LAN ハードウェアをクラスタ・インターコネクトとして設定するために必要な情報が説明されています。本書では,インターコネクト・ソフトウェアを設定するための手順を説明します。
注意
本書で説明する手順は,各システムのハードウェアおよびファームウェアが 『クラスタ・ハードウェア構成ガイド』 で説明するとおりにインストールされ,構成されていることを前提としています。ソフトウェアのインストレーションは,ハードウェアとファームウェアのインストールおよび構成を完了し,すべてのストレージおよびクラスタ・インターコネクト・ハブまたはスイッチの電源を入れてから開始してください。
TruCluster Server をインストールする前に,『クラスタ・リリース・ノート』 をお読みください。TruCluster Server のアーキテクチャおよび用語について不慣れな場合は,『クラスタ概要』 をお読みください。
この章の内容は,次のとおりです。
バージョン 5.1B の新しいインストレーション機能と変更されたインストレーション機能 (1.1 節)
インストレーションのタイプ (1.2 節)
インストレーション・コマンド (1.3 節)
フル・インストレーションの概要 (1.4 節)
必要なライセンス (1.5 節)
TruCluster Server サブセット (1.6 節)
Tru64 UNIX サブセット (1.7 節)
一般的な注意事項 (1.8 節)
1.1 バージョン 5.1B の新しいインストレーション機能と変更されたインストレーション機能
以下に,TruCluster Server バージョン 5.1B の新しい機能と変更された機能のうち,インストールまたはアップグレード処理に影響を与えるものを示します。
ローリング・アップグレード中における並列ロール段階
先行メンバでロール段階を実行後,クラスタ構成によって,最大 4 メンバまで同時にロールすることができます。詳細については 7.3 節を参照してください。
ノーロール・パッチ
クラスタが,短時間利用できなくなることが許される場合,各クラスタ・メンバにロールを行う代わりに,dupatch
コマンドを使用してクラスタ単位でパッチを適用することができます。詳細については 『Patch Kit Installation Instructions』 を参照してください。
TruCluster Server バージョン 5.1B の新しい機能と変更された機能の全体については,『クラスタ概要』を参照してください。
1.2 インストレーションのタイプ
TruCluster Server のインストレーションには,次の 2 つの方法があります。
フル・インストレーションは,新しい TruCluster Server クラスタを作成する場合,または既存のクラスタを TruCluster Server バージョン 5.1B にアップグレードできない場合,またはアップグレードしない場合に行います。ただし,既存クラスタに対してフル・インストレーションを行うと,インストール中およびアプリケーションの構成中はそのクラスタを使用できません。
アップグレード・インストレーションでは,現在の構成ができるかぎり保持されます。アップグレードの手順は,現在使用している製品の種類とバージョンによって異なります。表 1-1 に,TruCluster 製品の TruCluster Server バージョン 5.1B へのアップグレード手順を示します。
表 1-1: TruCluster Server バージョン 5.1B へのアップグレード手順
現在の製品 | 推奨する手順 | コメント |
TruCluster Server バージョン 5.1A | ローリング・アップグレード | 第 7 章を参照。この章の手順で,ベース・オペレーティング・システムおよびクラスタ・ソフトウェアのローリング・アップグレードを実行する。 |
TruCluster Server バージョン 5.1 | バージョン 5.1A へローリング・アップグレードした後に,バージョン 5.1B へローリング・アップグレードする。 | Tru64 UNIX バージョン 5.1B および TruCluster Server バージョン 5.1B のフル・インストレーションを実行するという方法もある (構成ファイル
.membern.cfg
を保存して,クラスタを再度作成する際に使用できる。構成ファイルについての詳細は,6.3 節を参照)。 |
TruCluster Server バージョン 5.0 または 5.0A | Tru64 UNIX バージョン 5.1B および TruCluster Server バージョン 5.1B のフル・インストレーション | |
TruCluster Production Server Software,TruCluster Available Server Software バージョン 1.5 またはバージョン 1.6 のいずれか | Tru64 UNIX バージョン 5.1B と TruCluster Server バージョン 5.1B のフル・インストレーション | 第 8 章を参照。 この章では 3 つのアップグレード方法を説明する。 [脚注 1] |
TruCluster Production Server Software または TruCluster Available Server Software の旧バージョン | Tru64 UNIX バージョン 5.1Bと TruCluster Server バージョン 5.1B のフル・インストレーション | 第 1 章〜第 5 章を参照。バージョン 1.5 または 1.6 の製品にアップグレードしたのち,第 8 章に示すいずれかのアップグレード方法を使用する方法もある。 |
TruCluster Memory Channel Software | Tru64 UNIX バージョン 5.1B および TruCluster Server バージョン 5.1B のフル・インストレーション | 第 8 章を参照。8.9 節 で,この種類のクラスタを TruCluster Server バージョン 5.1B にアップグレードする方法を説明している。 |
ここでは,クラスタの作成,クラスタへのメンバの追加,クラスタからのメンバの削除,およびローリング・アップグレードを行うコマンドを紹介します。
clu_create
Tru64 UNIX システムで
clu_create
コマンドを実行することにより,クラスタの最初のメンバを作成できる。clu_create
コマンドをいつどのように使用するかは,
clu_create
(8)
clu_add_member
クラスタの現在のメンバで
clu_add_member
コマンドを実行することにより,クラスタにメンバを追加できる。clu_add_member
コマンドをいつどのように使用するかは,
clu_add_member
(8)
clu_delete_member
クラスタの現在のメンバで
clu_delete_member
コマンドを実行することにより,それ以外のメンバをクラスタから削除できる。clu_delete_member
コマンドをいつどのように使用するかは,
clu_delete_member
(8)
clu_upgrade
現在のクラスタの特定のメンバで
clu_upgrade
コマンドを実行することにより,ローリング・アップグレードを実行できる。clu_upgrade
コマンドをいつどのように使用するかは,
clu_upgrade
(8)
この節では,新しい TruCluster Server バージョン 5.1B クラスタを形成するために必要な主な手順の概要を説明します。
『クラスタ・ハードウェア構成ガイド』を参照して,システムおよびストレージ・ハードウェアとファームウェアを構成します。
AdvFS ファイル・システムを選択し,1 つまたは複数のディスクに Tru64 UNIX をインストールします。ディスクは,第 1 クラスタ・メンバとなるシステムのプライベート・ディスク,またはシステムがアクセスできる共用バス上のディスクのいずれかです。
注意
Tru64 UNIX オペレーティング・システムは 1 つのシステムにのみインストールします。クラスタ・メンバになるシステムごとにオペレーティング・システムをインストールする必要はありません。
ネットワーク・サービスやタイム・サービスを含め,Tru64 UNIX システムを構成します。クラスタで使用するアプリケーションをロードして構成します。
TruCluster Server のライセンスとサブセットをロードします。
clu_create
コマンドを実行して第 1 クラスタ・メンバのブート・ディスクを作成し,クラスタ単位
[脚注 2]
のルート (/
),/usr
,および
/var
AdvFS ファイル・システムを作成します。
Tru64 UNIX システムを停止し,第 1 メンバのクラスタ・ブート・パーティションのあるディスクをブートします。システムのブートにより,シングル・メンバ・クラスタが形成され,クラスタ単位のルート (/
),/usr
,および
/var
の各ファイル・システムがマウントされます。
root
としてログインし,clu_add_member
コマンドを実行してメンバをクラスタに追加します。次のメンバを追加する前に,新しいメンバをブートしてください。
クラスタ単位のライセンスはありません。ライセンスはクラスタ・メンバごとにインストールする必要があります。
第 1 メンバの場合には,Tru64 UNIX をインストールしライセンスを登録してから,TruCluster Server ライセンス (TCS-UA) をロードして登録し,シングル・メンバ・クラスタを作成します。TruCluster Server サブセットは TruCluster Server ライセンスを登録しなくてもロードできますが,クラスタは TruCluster Server ライセンスをロードして登録するまで作成できません。
メンバをクラスタに追加するたびに,TruCluster Server ライセンスを登録しなければなりません。新しいメンバをブートすると,そのメンバは Tru64 UNIX のクラスタ単位のルート (/
),/usr
,および
/var
の各ファイル・システムを使用するため,Tru64 UNIX ライセンスも登録する必要があります。さらに,そのメンバで必要となる,その他すべてのアプリケーション・ライセンスも登録しなければなりません。
注意
TruCluster Server ライセンスがないシステムもブートできます。その場合,システムはクラスタに参加して,マルチユーザ・モードでブートしますが,ログインできるのは
root
のみ (最大 2 ユーザ) です。CAA (Cluster Application Availability) デーモンcaad
は起動されません。システムからは,ライセンスのロードを促すライセンス・エラー・メッセージが表示されます。このポリシにより,ライセンスのチェックが強制的に実行されますが,緊急時にはシステムのブート,ライセンス登録,および修復が行えます。
表 1-2
に,TruCluster Server サブセットを示します。
表 1-2: TruCluster Server サブセットの内容
サブセット名 | 説明 | 内容 |
TCRBASE540 |
TruCluster 基本コンポーネント | インストレーション・チェックおよびすべての必須クラスタ・コンポーネント |
TCRMAN540 |
TruCluster リファレンス・ページ | リファレンス・ページと例 |
TCRMIGRATE540 |
TruCluster 移行コンポーネント | TruCluster Production Server Software バージョン 1.5 またはバージョン 1.6,あるいは TruCluster Available Server Software からアップグレードする場合に使用する移行ユーティリティ |
表 1-3
に,Tru64 UNIX システムのルート (/
),/usr
,および
/var
の各ファイル・システムで,TruCluster Server バージョン 5.1B の各サブセットに必要なディスク容量の概算をメガバイト (MB) で示します。クラスタを作成するために必要な最小ディスク・サイズおよび推奨する容量については,表 2-2
に示します。
表 1-3: TruCluster Server サブセットのサイズ
サブセット | ルート (/ )ファイル・システム (MB) |
/usr ファイル・システム (MB) |
/var ファイル・システム (MB) |
合計 (MB) |
TCRBASE540 |
0.7 | 49.1 | 10.0 | 59.8 |
TCRMAN540 |
0 | 0.9 | 0 | 0.9 |
TCRMIGRATE540 |
0 | 1.1 | 0 | 1.1 |
合計 (MB) | 0.7 | 51.1 | 10.0 | 61.8 |
Tru64 UNIX をインストールする場合,ルート (/
),/usr
,および
/var
の各ファイル・システムのタイプは AdvFS を選択しなければなりません。
Tru64 UNIX オペレーティング・システムをインストールする際には,サイトのポリシで禁止されていないかぎり,クラスタ内のシステムの種類に関係なくすべてのサブセットをロードしてください。後で別のシステムを追加したり,インストールしていないサブセットに依存するアプリケーションをインストールしたりすることがあります。
注意
クラスタにさまざまなタイプのシステムが存在する場合は,各ハードウェア構成のサポートに必要となる,オプションの Tru64 UNIX サブセットがロードされることを確認してください。たとえば,キーボードやグラフィック・カードを正しく動作させるには特定のサブセットが必要となるため,すべてのキーボード・サブセットとフォント・サブセットをロードします。
ソフトウェア・サブセットは後で追加することもできますが,この時点では 1 つのシステムのみを扱っているため,クラスタを作成する前にインストールするほうが簡単です。既存のクラスタにサブセットをインストールする方法については,『クラスタ管理ガイド』 で説明しています。
1.8 一般的な注意事項
インストール時の一般的な注意事項としては,次のものがあります。
独自のカーネルを構築する場合,クラスタでは
/vmunix
はコンテキスト依存シンボリック・リンク (CDSL) になることに注意してください。
/vmunix -> cluster/members/{memb}/boot_partition/vmunix
CDSL は,他のシンボリック・リンクと同様に扱ってください。つまり,ファイルをコピーしてもリンクは保持されますが,ファイルを移動するとリンクは置き換えられます。
カーネルを
/vmunix
に (コピーではなく) 移動すると,シンボリック・リンクは実際のファイルで置き換えられます。
CDSL については,『クラスタ概要』を参照してください。CDSL の使用方法および修復方法は,『クラスタ管理ガイド』で説明しています。
ベース・オペレーティング・システムでは,Tru64 UNIX のインストールに必要なメモリの最低量が決まっています。クラスタでは,メンバごとにこの量より少なくとも 64 MB 多いメモリを用意する必要があります。たとえば,ベース・オペレーティング・システムに最低限必要なメモリが 128 MB である場合,クラスタで使用する各システムには,少なくとも 192 MB のメモリが必要です。
TruCluster Server では,UNIX ファイル・システム (UFS) の読み取りがクラスタ単位で行えます。つまり,あるメンバが UFS ファイル・システムをマウントして,クラスタの他のメンバから読み取り専用でアクセスさせることができます。UFS ファイル・システムを読み取り/書き込みでマウントすることもできます。ただし,その場合にそのファイル・システムに読み取り/書き込みアクセスができるのは,そのファイル・システムをマウントしたメンバに限られます (ローカル使用のみ)。他のクラスタ・メンバはそのファイル・システムにアクセスできません。そのメンバがダウンした場合,フェイルオーバは行われません。