この章では,フル・インストレーションの機能およびオプションの概要について説明します。 フル・インストレーションでは,次のようなことができます。
ディスクの動的なパーティション分割 (4.1.1 項)
ベース・オペレーティング・システムと,ワールドワイド言語サポート (WLS) ソフトウェアの同時インストール (4.1.2 項)
フル・インストレーションでの LSM (Logical Storage Manager) のインストレーションと構成 (4.1.3 項)
ディスク入出力 LED の点滅による,物理ディスクの識別 (4.1.4 項)
オプション・ソフトウェア選択時の,ソフトウェア依存関係の自動解決 (4.1.5 項)
事前に定義された呼び出し位置でユーザ提供ファイルを呼び出してインストレーション処理をカスタマイズする機能 (4.1.6 項)
インストール済みシステムのインストレーション特性を他の類似システムへ複製する方法 (4.1.7 項)
1 つのシステムから他の類似システムへの,構成されたサービスの複製 (ネットワーク,インターネット,メール,プリントのサービス) (4.1.8 項)
ファイル・システムおよびディスク管理の作業を実行するための,UNIX シェルへのアクセス (4.1.9 項)
フル・インストレーションの機能について特に関心がない場合は,フル・インストレーションの準備作業について説明している第 5 章へ進んでください。
4.1 フル・インストレーションの機能について
フル・インストレーションは,グラフィカル・インタフェースとテキスト・ベース・インタフェースのどちらからでも起動できます。 使用されるインタフェースは,システムのグラフィック機能により決まります。 GUI の場合,インタフェースは日本語,アメリカ英語,中国語のいずれかを選択して表示できます。 どちらのインタフェースを使用しても,オペレーティング・システムのフル・インストレーションは速く簡単に実行できます。 どちらのインタフェースも作業指向の設計になっており,セットアップ処理の作業内容に従ってユーザを誘導し,いつでも前後に移動することができます。 6.7 節に,フル・インストレーション中にユーザによる入力が必要な情報と,判断すべき事項についてまとめます。
フル・インストレーションでは,インストレーションに使用するディスクやパーティション上に,新しいファイル・システムとスワップ領域を作成します。 ファイル・システムやスワップ領域がインストールされるディスク・パーティション上に存在する,既存のシステムとユーザ作成のファイルは,上書きされます。 ディスク・レイアウトとスワップ領域割り当てには,省略時の設定を使用することも,ファイル・システムとスワップ領域の記憶場所を完全にカスタマイズすることもできます。
注意
現在稼働中のシステムで,ファイル・システム・タイプとして Advanced File System (AdvFS) が使用されている場合は,フル・インストレーションが完了した後に,
advscan
ユーティリティを実行して/etc/fdmns
ディレクトリを再構築する必要があります。 詳細については,7.6 節を参照してください。
フル・インストレーション・プロセスはユーザが選択したソフトウェアに基づいてファイル・システム・レイアウトを決定します。 ファイル・システムのサイズを前もって計算したり,正しくインストールできるようインストレーション処理の前にディスク・パーティションを設定し直す必要はありません。
省略時,フル・インストレーションでは,次のようなファイル・システム・レイアウトになります。
単一のディスク (省略時は
dsk0
) に,次のレイアウトでオペレーティング・システムをインストールします。
/
(ルート) ファイル・システムは,a
パーティションに配置される。
/usr
ファイル・システムは,g
パーティションに配置される。
var
領域は,/usr
ファイル・システム内の 1 つのディレクトリになる。
WLS
がインストールされる場合,i18n
(国際化) 領域は,g
パーティションに配置された
/usr
ファイル・システム内の 1 つのディレクトリになる。
1 つのスワップ領域が,b
パーティションに配置される。
ファイル・システムはすべて,AdvFS (Advanced File System) として作成されます。
各ディスク・パーティションのサイズは,インストール用に選択したディスクのサイズと,ユーザがインストールするサブセットの数によって決まります。
フル・インストレーション中は,ディスクのレイアウトとパーティションをカスタマイズするオプションをいつでも使用できます。
4.1.2 ワールドワイド言語サポート (WLS) ソフトウェアのインストール
Tru64 UNIX は,国際化対応のオペレーティング・システムです。 WLS ソフトウェア・サブセットは,さまざまな母国語や国をサポートします。 WLS ソフトウェア・サブセットをインストールすると,ユーザは母国語で作業をすることができます。 また,ソフトウェア開発者は,国際化ソフトウェアを開発できます。 WLS ソフトウェア・サブセットは,「Associated Products, Volume 1」 CD-ROM に入っています。
アメリカ英語は必須であり,すべてのフル・インストレーションでインストールされます。 オプションとして,1 つ以上の言語サポートを追加インストールできます。 十分なディスク・スペースが確保されるように,フル・インストレーション中に WLS をインストールすることをお勧めします。 1 つ以上の国や言語のインストレーションを追加で選択した場合,次の処理が行われます。
選択した各言語の必須ソフトウェア・サブセットが,自動的にインストールされます。
すべてのベース・オペレーティング・システム・サブセットをインストールする場合,選択した各国用のすべてのサブセットがシステムにインストールされます。
選択したすべての国について,選択したベース・オペレーティング・システム・サブセットに対応するすべての
WLS
サブセット (IOSWW
で始まるサブセット) がインストールされます。
選択した各国のオプション・サブセットは,フル・インストレーションの完了後に
wwinstall
スクリプトあるいは
setld
コマンドでインストールすることができます。
WLS ソフトウェアは,/usr/i18n
(internationalization) ディレクトリにインストールされます。
このディレクトリは,独立したファイル・システムとすることができます。
特に指定しないかぎり,このディレクトリは
/usr
ファイル・システムの一部になります。
WLS ソフトウェア・サブセットは,フル・インストレーション後に
wwinstall
コマンドまたは
setld -l
を使用してインストールできます。
手順については,『インストレーション・ガイド -- 上級ユーザ編』 を参照してください。
4.1.3 Logical Storage Manager (LSM) の構成
フル・インストレーションの過程で,LSM (Logical Storate Manager) をインストールして構成することができます。 LSM は,強力なディスク管理ツールのセットであり,ディスク・ストレージ・サブシステムの構成やモニタを行ったり,可用性や性能を向上させることができる,ホスト・ベースのディスク・ストレージ管理のソフトウェア製品です。 これらのツールを使用すると,システム管理者は,アプリケーション,データベース,ユーザに必要な記憶領域を,標準の UNIX パーティションや物理デバイスの制限なしに,柔軟に管理することができます。 LSM の機能は,次のとおりです。
オンライン・ストレージ管理 -- システムのディスクを,LSM 論理ボリュームを作成するための領域のプールとして管理する機能を提供します。
連結 (ディスク・スパニング) -- 大規模なファイル・システムやデータベースで使用するために,複数の物理ディスクを単一の大きな仮想ディスク (ボリューム) として結合することができます。
ストライピング (RAID 0) -- ボリューム内のデータを複数の物理ディスクにまたがってインタリーブすることにより,システムのディスク I/O 性能を向上させます。
ミラーリング (RAID 1) -- 別のディスク上にデータのミラー (複製) イメージを作成することにより,ハードウェアの故障によるデータの紛失を防止します。
ルートとスワップのミラーリング -- システムのブートや実行に使用される重要なシステム・ディスク・パーティションのミラーリングを可能にし,1 台のディスクの故障でシステムが使用不可能にならないようにします。
ダーティ・リージョン・ロギング -- I/O 書き込みで変更された,ミラー・ボリュームの領域を追跡します。 システム障害後,ミラー・ボリュームを素早く同期させることができます。
カプセル化 -- ディスク・パーティション上にある既存のデータを,LSM ボリュームに移行することができます。
ミラーリングやストライピングなどの高度な LSM 機能には,個別のソフトウェア・ライセンスが必要です。
LSM の利点,構成,および管理についての詳細は,『Logical Storage Manager』を参照してください。
4.1.4 ディスクの識別
ディスク・デバイス名と物理ディスクの対応を分かりやすくするため,どちらのインストレーション・インタフェースにも,ディスクの入出力 LED を繰り返し点滅させることにより,物理ディスクとデバイス名の対応を調べる方法が用意されています。 LED の点滅により,大半のディスクを識別することができます。 ただし,ハードウェアの制限があるため,すべてのディスクをこの方法で識別できるわけではありません。
デバイスの命名規則については,付録 A
を参照してください。
4.1.5 依存ソフトウェアの自動検出とインストレーション
フル・インストレーション時にオプションのソフトウェアをインストールする場合は,他のソフトウェアに依存するかどうかが自動的にチェックされます。
依存関係のチェックにより,オプションのソフトウェアが正しく動作するために必要なソフトウェアもインストールされます。
このような依存関係が検出された場合,依存するソフトウェアは自動的にインストールされ,その旨,ユーザに通知されます。
4.1.6 ユーザ提供ファイルの呼び出し
通常のフル・インストレーションではカバーされないカスタマイズを行うために,フル・インストレーション中にユーザ提供ファイルを呼び出すことができます。 ユーザ提供ファイルには,スクリプト,実行可能ファイル,またはプログラムを使用することができます。
フル・インストレーション・プロセスは,次の 3 つの時点で,ユーザ提供ファイルを探します。
ファイル・システムの作成前,またはソフトウェアのインストール前
ソフトウェアのインストール後
リブート後で,最適化カーネルの構築および構成フェーズの前
ユーザ提供ファイルが見つかると,そのファイルが実行されます。
この機能により,フル・インストレーション処理を完全に自動化し,システムのカスタマイズを行い,特殊なインストレーションにも対応することができます。
この機能を利用する場合は,『インストレーション・ガイド -- 上級ユーザ編』 を参照して,ファイルの命名規則,スクリプト例,フル・インストレーション・プロセスが発見できるようにするためにファイルを準備したり適切な位置へ移動する方法を確認してください。
4.1.7 インストレーションのクローニング
インストレーションのクローニングを使用すると,1 つのモデル・システムのインストレーション特性を,ハードウェア構成が同一または同等の 1 つ以上のシステムに複製することができます。
オペレーティング・システムのインストール時には,指定されたインストレーション・セットアップ・データを含む
install.cdf
という構成記述ファイル (CDF) を,フル・インストレーション・プロセスが自動的に生成します。
CDF は,/var/adm/smlogs
ディレクトリに置かれます。
install.cdf
ファイルには,フル・インストレーションを別のシステムに複製するために必要なインストレーション情報がすべて含まれています。
注意
異なるリリースのオペレーティング・システム間でのインストレーションのクローニングは,サポートされていません。 以前のバージョンのオペレーティング・システムで作成された CDF は,現在のバージョンとは互換性がありません。
ハードウェア構成の相違の許容範囲についての情報や,フル・インストレーション中に呼び出されるように
install.cdf
ファイルを準備して正しい位置に移動する方法については,『インストレーション・ガイド -- 上級ユーザ編』を参照してください。
4.1.8 構成のクローニング
構成のクローニング機能を使用すると,構成項目のうち,ネットワーク,プリンタ,メールなどのサービスの構成を,構成済みのシステムから,1 つ以上の別のシステムへ複製することができます。 構成のクローニングは,グループ内の複数のシステムを同様の構成にする場合に使用できます。 システムのインストレーションと構成を完全に自動化するには,構成のクローニングとインストレーションのクローニングを併用します。 これにより,システムのインストレーション後に構成の作業を手動で行う必要が全くなくなります。
モデル・システムとして選択したシステムが希望どおりに完全に構成されたら,sysman -clone -save
コマンドを手動で実行して,システム構成データのスナップショットを
config.cdf
という名前の
CDF
に保存します。
特に指定しなければ,CDF は
/var/adm/smlogs
ディレクトリに保存されます。
注意
異なるリリースのオペレーティング・システム間での構成のクローニングは,サポートされていません。 古いバージョンのオペレーティング・システムで作成された構成 CDF は,現在および将来のリリースでは使用できません。
フル・インストレーション中に呼び出されるように
config.cdf
ファイルを作成,編集,および移動する方法については,『インストレーション・ガイド -- 上級ユーザ編』を参照してください。
4.1.9 上級管理者向けの UNIX シェルへのアクセス
どちらのフル・インストレーション・インタフェースにも,スーパユーザ特権を使用してシングルユーザ・モードで UNIX シェルをアクセスする機能が提供されています。
UNIX シェルを使用すると,/
(root) ファイル・システムの破損などの重大な問題を解決したり,インストレーション時にユーザがファイル・システムとディスクの一般的な保守作業を実行できます。
ただし,この UNIX シェル・オプションは,経験豊かなユーザが使用することをお勧めします。
テキスト・ベース・インタフェースでフル・インストレーションを開始すると,最初のメニューのオプションの 1 つとして,UNIX シェルが表示されます。 UNIX シェル・オプションを選択すると,インストレーション・プロシージャは終了します。 テキスト・ベース・インタフェースで操作した後で UNIX シェルを起動すると,それまでに行った選択内容は失われてしまうため,初めからやり直す必要があります。
グラフィカル・インタフェースを使用している場合は,[File] メニューから UNIX シェルにアクセスします。 この場合,グラフィカル・インストレーション・プロシージャは利用可能な状態で,必要に応じてフル・インストレーション・プロシージャと UNIX シェルの間を行き来できます。 この時点までに行った選択は,そのまま保持されます。
配布メディアには,ソフトウェアがシステム上にインストールされた場合と同じレイアウトでファイル・システムが含まれており,/
,/usr
,および
/var
の領域に直接アクセスできます。
この形式により,オペレーティング・システムがまだ完全には機能していなくても,多くのコマンドやユーティリティが UNIX シェル内で利用できます。
実際,配布メディアをマウントすると,ファイル・システムとして機能します。
注意
UNIX シェルからシステムに対して行った変更は,動作中のシステムと,以降のインストレーションに影響します。 たとえば,ファイル・システムをあるディスクとパーティションに割り当てた後に,UNIX シェルを使用してディスク・ラベルを編集すると,選択に悪影響を与えることがあります。
UNIX シェル環境から実行できる各種の保守作業の詳細については,『インストレーション・ガイド -- 上級ユーザ編』を参照してください。
4.2 フル・インストレーション: 省略時の設定とユーザ・オプション
表 4-1に,フル・インストレーションの省略時の設定と,各機能に対する選択肢を示します。
表 4-1: カスタム・オプションの選択肢
インストレーション項目 | ユーザの選択肢 | インストレーションでの省略時の設定 |
ベース・オペレーティング・システム・ソフトウェア・サブセット | 必須ソフトウェア・サブセットのみ,必須ソフトウェア・サブセットと選択したオプションのソフトウェア・サブセット,またはすべてのソフトウェア・サブセットのいずれかを選択する。 | 必須ベース・オペレーティング・システム・ソフトウェア・サブセットのみをインストールする。 |
ワールドワイド言語サポート (WLS) サブセット | アメリカ英語の他に,1 つ以上の言語サポートをインストールできる。 | アメリカ英語サポートのみをインストールする。 |
ディスク選択 | / ,/usr ,/var
の各ファイル・システムとスワップ領域 (最大 2 つ) を,単一のディスク上に割り当てるか,複数のディスク上に分散させて割り当てる。 |
/
と
/usr
の両ファイル・システムとスワップ領域 1 つが,同じディスク上に配置される。
var
と
i18n
(必要な場合) は,/usr
の下のディレクトリになる。
[脚注 5]
|
パーティション・テーブル | カスタム・パーティション・テーブルを作成できる (単一ディスク用あるいは複数ディスク用)。 | ソフトウェア・サブセットの選択およびディスク・サイズに基づいた,単一ディスク用の推奨パーティション・テーブルが作成される。 |
ファイル・システムの位置 | カスタマイズされたファイル・システム・レイアウトを作成できる。
/
ファイル・システムは,必ず
a
パーティションに配置されるが,他のファイル・システムとスワップ領域はすべて,任意のディスク上の任意のディスク・パーティションに配置できる。 |
/
ファイル・システムを
a
パーティションに,/usr
ファイル・システムを
g
パーティションに,スワップ領域を
b
パーティションに置く省略時のファイル・システム・レイアウトが作成される。 |
ファイル・システム・タイプ | / ,/usr ,/var ,および
i18n
のファイル・システム・タイプとして,UFS
と
AdvFS
[脚注 6]
のどちらかを選択できる。 |
すべてのファイル・システムに同じファイル・タイプを割り当てる。 省略時のファイル・システム・タイプは AdvFS。 テキスト・ベース・インタフェースでは,省略時の設定はない。 |
スワップ領域 | スワップ領域は,任意のディスクまたはパーティション上に,2 つまで割り当てることができる。 | b
パーティションに,スワップ領域を 1 つ割り当てる。 |
LSM (Logical Storage Manager) | システムのインストール時に LSM ボリュームにインストールできる。 LSM のインストールを選択した場合は,LSM プライベート・リージョンが自動的に作成される。 | LSM ボリュームにインストールしない。 |
カーネル構成要素オプション | カーネルに組み込むカーネル構成要素のタイプを指定できる (必須のカーネル構成要素のみ,必須カーネル構成要素と一部のオプション構成要素,またはすべてのカーネル構成要素)。 | 必須カーネル構成要素をカーネルに組み込む。 |