9    クラスタのインストレーションと管理

この章では,クラスタのインストレーション (9.1 節) と管理 (9.2 節) についての概要を説明します。

9.1    インストレーション

TruCluster Server バージョン 5.1B では,次のような 3 つのアップグレード・パスをサポートしています。

  1. TruCluster Server バージョン 5.1B のフル・インストレーション。

  2. TruCluster Server バージョン 5.1A からのローリング・アップグレード

    ローリング・アップグレードとは,クラスタの操作中にクラスタのソフトウェア・アップグレードを実行することです。クラスタが Tru64 UNIX ベース・オペレーティング・システム,クラスタ,WLS (ワールドワイド言語サポート) ソフトウェアの混在バージョン環境を透過的に維持しながら,一度に 1 つのメンバがローリングされて,元に戻されます。

    クラスタのアップグレードに要する時間を短くするために,複数メンバのローリングを並列で処理することができます。同時にローリングするメンバの数を制限する条件は,ローリングされないメンバ (メンバの状態が UP) にクォーラムを維持するのに十分な数のボートがあることだけです。並列処理でローリングすれば,一度に 1 つのメンバをローリングして 4 メンバ構成のクラスタをアップグレードするのに要する時間とほぼ同じ時間で,8 メンバ構成のクラスタをアップグレードできます。

    ローリング・アップグレード手順は,次の 3 つの主要な作業で使用します。

    1. Tru64 UNIX ベース・オペレーティング・システムおよびクラスタ・ソフトウェアの以前のバージョンから現在のバージョンへのローリング

    2. クラスタへのパッチ・キットのローリング

    3. バージョン 5.1B クラスタへの NHD (New Hardware Delivery) キットのローリング

    パッチ・キットまたは NHD キットのローリングでは,ベース・オペレーティング・システムおよびクラスタ・ソフトウェアの新しいリリースへのローリングと同じ手順を使用します。clu_upgrade コマンドは,ローリング・アップグレードを制御します。clu_upgrade コマンドの詳細については, clu_upgrade(8) を参照してください。

  3. TruCluster Production Server Software または TruCluster Available Server Software バージョン 1.5 またはバージョン 1.6 製品からの 3 つのアップグレード手順。

    このうちの 2 つのオプションでは,旧クラスタ (rz* 形式のデバイス名) から新クラスタ (dsk* 形式のデバイス名) へのストレージの移行を容易にするために特別に設計されたスクリプトを使用します。共用ストレージがほとんどないか全くない TruCluster Memory Channel Software 製品のアップグレード・パスについては,『クラスタ・インストレーション・ガイド』でも説明しています。

TruCluster Server バージョン 5.x クラスタを作成する際の主な違いは,Tru64 UNIX をクラスタ内の 1 つのシステムにだけインストールするということです。CFS はクラスタ単位の共用ファイル・システムを作成するため,クラスタが作成されれば,クラスタ内に追加でブートされたメンバは,これらのファイルにアクセスできるようになります。TruCluster Server バージョン 5.0 より前のリリースでは,ベース・オペレーティング・システムをすべてのクラスタ・メンバにインストールしなければならず,クラスタ単位のファイル・システムはありませんでした。

TruCluster Server では,最初のクラスタ作成,メンバの追加,メンバの削除は,3 つの対話型のインストレーション・スクリプト,clu_createclu_add_memberclu_delete_member によって行います。これらのスクリプトには,オンライン・ヘルプがあります。また,これらのスクリプトは,/cluster/admin ディレクトリにログ・ファイルを書き込みます。

次のリストは,新規に TruCluster Server クラスタをインストールして形成するために必要な手順の概要です。

  1. クラスタ・ハードウェア構成ガイド』の情報を使用して,システムおよびストレージの,ハードウェアおよびファームウェアを構成します。

  2. AdvFS ファイル・システムを使用して,最初のクラスタ・メンバになるシステムのローカル・ディスクに Tru64 UNIX をインストールします。

  3. ネットワークやタイム・サービスを含め Tru64 UNIX システムを構成します。クラスタで使用するアプリケーションをロードして構成します。

  4. TruCluster Server のライセンスおよびソフトウェアをロードします。

    注意

    各クラスタ・メンバには,Tru64 UNIX と TruCluster Server の両方のライセンスがなければなりません。

    入手したパッチ・キットまたは NHD キットがあれば,クラスタ・ソフトウェアをロードした後,clu_create コマンドを実行する前にインストールします。clu_create コマンドを実行する前にそれらをインストールすれば,後になってそれらをクラスタにローリングする必要がなくなります。

  5. clu_create コマンドを実行して,最初のクラスタ・メンバのブート・ディスクを作成し,クラスタ単位のルート (/),/usr/var の AdvFS ファイル・システムを作成して配置します。

  6. Tru64 UNIX システムを停止させ,最初のメンバのクラスタ・ブート・パーティションを含むディスクからブートします。システムが起動すると,シングル・メンバ・クラスタが形成され,クラスタ単位のルート (/),/usr/var の各ファイル・システムがマウントされます。

  7. シングル・メンバ・クラスタにログインし,clu_add_member コマンドを実行してクラスタにメンバを追加します。新しいメンバは,次のメンバを追加する前にブートしてください。

TruCluster Server のインストールについての詳細は,『クラスタ・インストレーション・ガイド』を参照してください。

9.2    管理

クラスタ単位のファイルのネームスペースがあるため,クラスタ管理が大幅に簡略化されます。クラスタには,ほとんどのシステム構成ファイルのコピーが 1 つだけあります。たとえば,/etc/group ファイル 1 つと /etc/passwd ファイル 1 つで,クラスタが 1 つのセキュリティ・ドメインとして管理されます。

ファイルへのユーザ・アクセスは,ユーザがどのノードにログインして,どのノードがそのファイルのサービスを行っているかということとは独立しています。ファイル許可とアクセス制御リスト (ACL) は,クラスタ全体で共通です。

監査ログは,共通の位置にあります。各メンバのホスト名がログ・ファイルに付加され,監査イベントを追跡する際に混乱しないようになっています。

多くの場合,TruCluster Server 環境の次のような側面を管理しなければならないことがあるため,1 つのシステムではなくクラスタを管理していることが明らかに分かります。次に示すリストでは,各管理領域の後に,クラスタを管理またはモニタリングするために使用する,クラスタ固有のコマンドが示されています (SysMan Menu および SysMan Station の GUI で,コマンド行のほとんどの機能を実行できます。ただし,クラスタのインストールではクラスタ・インストレーション・コマンドを使用しなればなりません)。

上記の項目に加え,SSI (Single System Image) モデルには,コマンド・レベルの例外もあります (SSI とは,可能な場合には,ユーザからクラスタが 1 つのコンピュータ・システムに見えるようにすることです)。たとえば,wall コマンドを実行すると,メッセージはコマンドが実行されたクラスタ・メンバにログインしているユーザにのみ送信されます。すべてのクラスタ・メンバにログインしているすべてのユーザにメッセージを送信するには,wall -c コマンドを実行します。shutdown コマンドについても,同じことが言えます。個々のメンバのシャットダウンとクラスタ全体のシャットダウンのどちらもできます。

TruCluster Server クラスタの構成と管理についての詳細は,『クラスタ管理ガイド』を参照してください。