TruCluster Server クラスタの管理はスタンドアロン Tru64 UNIX システムの管理に似ています。システム管理用の 600 を超えるコマンドとユーティリティのうち,20 未満のコマンドとユーティリティがクラスタ管理専用に用意されています。これらのコマンドの大部分を使い,クラスタを作成したり,クラスタに新規メンバを追加したり,アプリケーションを高可用性アプリケーションとして構成したりします。Tru64 UNIX システムの管理に関する知識で,TruCluster Server クラスタの管理のほとんどが可能です。
本書では,クラスタの管理に特有の状況について説明します。その他の状況での管理手順については,Tru64 UNIX 『システム管理ガイド』を参照してください。
本書をさらに読み進む前に,TruCluster Server 『クラスタ概要』の内容をよく理解しておいてください。クラスタの管理には,このマニュアルの内容を理解しておくことが必要です。
この章では,次の事項について説明します。
多くの状況で,TruCluster Server の次のような項目を管理する必要から,管理対象がスタンドアロン・システムではなくクラスタであることが明白になります。
クラスタの作成と構成 : クラスタの初期メンバの作成,メンバの追加と削除,クラスタ構成の照会を行う。
CAA (Cluster Application Availability) サブシステム : 高可用性アプリケーションの定義および管理を行う。
クラスタ別名 : ネットワーク上のクライアントから単一システムとしてクラスタを参照可能にする。
クラスタのクォーラムとボート : クラスタの構成要素とメンバシップを定義する。メンバシップに従ってクラスタ・リソースへのアクセスを許可する。
デバイス要求ディスパッチャ : クラスタ内のすべてのデバイスへの透過的かつ高可用性のアクセス手段を提供する。
クラスタ・ファイル・システム (CFS) : ルート (/
) ファイル・システムなど,クラスタ全体のすべてのファイル・システムへの一貫したアクセス手段を提供する。
クラスタ・インターコネクト : クラスタ単位でメンバ間のプライベート通信パスのインターコネクト機能を提供する。
ただし,ユーザからクラスタが 1 つのコンピュータ・システムのように見えないときには,コマンド・レベルでいくつかの例外が発生します。たとえば,wall
コマンドを実行すると,実行元のクラスタ・メンバのログインしているユーザのみにメッセージが送信されます。すべてのクラスタ・メンバのログインしているユーザすべてにメッセージを送信するには,wall -c
コマンドを使用する必要があります。
1.1 クラスタ用のコマンドとユーティリティ
表 1-1
に TruCluster Server システムの管理に固有のコマンドを示します。これらのコマンドは,クラスタの該当項目の操作または照会に使用します。これらのコマンドについては,リファレンス・ページに解説があります。
表 1-1: クラスタ用コマンド
用途 | コマンド | 機能 |
クラスタのメンバの作成と構成 |
clu_create (8) |
Tru64 UNIX システム上でクラスタの最初のメンバを作成する。 |
clu_add_member (8) |
クラスタにメンバを追加する。 | |
clu_delete_member (8) |
クラスタからメンバを削除する。 | |
clu_check_config (8) |
TruCluster Server が適切にインストールされているか,クラスタが正しく構成されているかを確認する。 | |
clu_get_info (8) |
クラスタとそのメンバに関する情報を表示する。 | |
高可用性アプリケーションの定義と管理 |
caad (8) |
CAA デーモンを起動する。 |
caa_profile (8) |
アプリケーションの可用性プロファイルを管理し,基本的な構文チェックを実行する。 | |
caa_balance (8) |
アプリケーション・リソースをメンバ間で均等に分散する。 | |
caa_register (8) |
CAA デーモンにアプリケーションを登録する。 | |
caa_relocate (8) |
クラスタのあるメンバから高可用性アプリケーションを別のメンバに手動で再配置する。 | |
caa_report (8) |
アプリケーション・リソースに対する可用性統計情報をレポートする。 | |
caa_start (8) |
CAA デーモンに登録された高可用性アプリケーションを起動する。 | |
caa_stat (1) |
CAA デーモンに登録されたアプリケーションの状態を表示する。 | |
caa_stop (8) |
高可用性アプリケーションを停止する。 | |
caa_unregister (8) |
高可用性アプリケーションの登録を取り消す。 | |
クラスタ別名の管理 |
cluamgr (8) |
クラスタ別名を作成および管理する。 |
clua_active (8) |
クラスタ別名がアクティブで到達可能かどうかを決定する。 | |
クォーラムとボートの管理 |
clu_quorum (8) |
クォーラム・ディスクを構成または削除する。クォーラム・ディスク・ボート,ノード・ボート,または期待ボートを調節する。 |
コンテキスト依存シンボリック・リンク (CDSL) の管理 |
mkcdsl (8) |
CDSL を作成またはチェックする。 |
デバイス要求ディスパッチャの管理 |
drdmgr (8) |
分散デバイスの属性を取得または設定する。 |
クラスタ・ファイル・システム (CFS) の管理 |
cfsmgr (8) |
クラスタにマウントされたファイル・システムを管理する。 |
Memory Channel の状態の照会 |
imcs (1) |
Memory Channel アプリケーション・プログラミング・インタフェース (API) ライブラリ
libimc
の状態を報告する。 |
imc_init (1) |
現在のホスト上の Memory Channel API ライブラリ
libimc
を初期化および構成する。 |
次の表に示した Tru64 UNIX のコマンドとサブシステムは,クラスタ固有のオプションを持ち,クラスタとスタンドアロン Tru64 UNIX システムとでは異なる動作をします。
一般に,プロセス管理用のコマンドはクラスタ対応ではないので,実行元のメンバの管理にしか使用できません。
表 1-2 に,ファイル・システムおよびストレージ管理用のコマンドおよびユーティリティの動作の違いを示します。
スタンドアロン Tru64 UNIX システムでは,ルート・ファイル・システム (/
) は
root_domain#root
です。クラスタでは,ルート・ファイル・システムは常に
cluster_root#root
です。クラスタの各メンバのブート・パーティションは
root
memberID_domain#root
です。
たとえば,メンバ ID 6 のクラスタ・メンバ上では,ブート・パーティション (/cluster/members/member6/boot_partition
) は
root6_domain#root
です。
表 1-2: ファイル・システムおよびストレージ管理に関する相違点
コマンド | 相違点 |
addvol (8) |
スタンドアロン・システムでは,
LSM (Logical Storage Manager) ボリュームは
|
bttape (8) |
ファイルのバックアップと復元についての詳しい説明は,9.8 節を参照。 |
df (1) |
|
iostat (1) |
|
LSM 関連
|
LSM が制御していないディスク (つまり, クラスタでは,あるクラスタ・メンバ上で
クラスタで使用する LSM についての詳細は,第 10 章を参照。 |
mount (8) |
ネットワーク・ファイル・システム (NFS) ループバック・マウントはサポートされていない。詳細は,7.6.2.4 項を参照。
|
Prestoserve 関連
|
Prestoserve はクラスタ非対応。 |
showfsets (8) |
クォータや物理ストレージの実量を超えてアクセスし,異常なデータをキャッシュすることを避けるために,ファイルセットのクォータ制限とストレージ制限を行う。 |
UNIX ファイル・システム (UFS) 関連 メモリ・ファイル・システム (MFS) 関連 |
UFS ファイル・システムでは,接続を使った読み取りアクセスだけが可能である。メンバに障害が起こると,CFS はそのファイル・システムをサービスする新しいサーバを選ぶ。パスに障害が起こると,CFS はそのストレージに至る代わりのデバイス要求ディスパッチャを使用する。 クラスタ・メンバは UFS ファイル・システムを読み取り/書き込みでマウントできる。そのファイル・システムにはそのメンバだけがアクセスできる。リモートからはアクセスできず,フェイルオーバはできない。MFS ファイル・システムは,読み取り専用でマウントしたか読み取り/書き込みでマウントしたかに関係なく,それをマウントしたメンバだけがアクセスできる。MFS ファイル・システムと読み取り/書き込みの UFS ファイル・システムのサーバは,そのマウントを起動したメンバが担当する。 |
verify (8) |
詳細は,9.11.1 項を参照。 |
表 1-3
に,ネットワーク管理用のコマンドおよびユーティリティの動作の違いを示します。
表 1-3: ネットワーク管理に関する相違点
コマンド | 相違点 |
BIND (Berkeley Internet Name Domain) 関連
|
BIND クライアントの構成はクラスタ単位で行うので,クラスタのすべてのメンバは同じクライアント構成を使用する。 クラスタの 1 つのメンバだけが BIND サーバになることができる。BIND サーバは CAA 制御下の高可用性サービスである。BIND サーバ名としてクラスタ別名が使用される。 詳細は,7.4 節を参照。 |
ブロードキャスト・メッセージ関連
|
クラスタでは, |
DHCP (Dynamic Host Configuration Protocol) 関連
|
クラスタは DHCP サーバになることができるが,クラスタのメンバは DHCP クライアントになることはできない。クラスタ内では
詳細は,7.1 節を参照。 |
dsfmgr (8) |
オプション
|
メール・サービス関連
|
メール・サービスを実行するメンバは同じメール構成を使用しなければならない。したがって,これらのメンバでは同じプロトコルを有効にする必要がある。また,これらのメンバをメール・クライアントまたはメール・サーバのいずれかに構成しなければならない。詳細は,7.8 節を参照。
|
ネットワーク・ファイル・システム (NFS) 関連
|
NFS を構成するには, クラスタのメンバは NFS クライアント・デーモン
詳細は,7.6 節を参照。 |
ネットワーク管理関連
|
クラスタ構成中にネットワークを構成した場合, TruCluster Server バージョン 5.1B より前のリリースでは,クラスタのルーティング・デーモンとして
|
NIFF (Network Interface Failure Finder) 関連
|
NIFF がクラスタ内のネットワーク・インタフェースを監視するには,niffd
(NIFF デーモン) がクラスタの各メンバ上で動作していなければならない。
詳細は,6.2 節を参照。 |
NIS (ネットワーク情報サービス) 関連
|
NIS は高可能性アプリケーションとして動作する。 NIS マスタの識別には省略時のクラスタ別名が使用される。 詳細は,7.2 節を参照。 |
NTP (Network Time Protocol) 関連
|
クラスタのすべてのメンバの時刻同期には NTP が使用される。 各クラスタ・メンバはそれぞれ他のメンバの NTP ピアとして自動的に構成されるので,特別な NTP の構成は不要。 詳細は,7.5 節を参照。 |
routed (8) |
TruCluster Server バージョン 5.1B より前のリリースでは,クラスタのルーティング・デーモンとして
クラスタの最初のメンバ を作成すると, ルータについての詳しい説明は,6.3 節を参照。 |
表 1-4
に,プリント管理に関する相違点を示します。
表 1-4: プリント管理に関する相違点
コマンド | 相違点 |
|
プリント・サーバにするクラスタ・メンバを指定するには,クラスタ固有のプリンタ属性 (
詳細は,7.3 節を参照。 |
Advanced Printing Software | クラスタに Advanced Printing Software をインストールして使用する方法についての詳細は,Tru64 UNIX Advanced Printing Software 『システム管理/操作ガイド』を参照。 |
表 1-5
に,セキュリティ管理に関する相違点を示します。
クラスタで使用するエンハンスト・セキュリティ機能については,Tru64 UNIX 『セキュリティ管理ガイド』を参照してください。
表 1-5: セキュリティ管理に関する相違点
コマンド | 相違点 |
|
クラスタはシングル・セキュリティ・ドメインである。クラスタの root 特権を持つユーザは,クラスタ別名かクラスタ・メンバの 1 つに root としてログインできる。同様に,アクセス制御リスト (ACL) およびユーザ権限/特権もクラスタ全体に対して効力がある。 監査ログ・ファイルを除き,セキュリティ関連のファイル,ディレクトリ,およびデータベースはクラスタ全体で共用される。監査ログ・ファイルは各メンバに固有である。つまり,監査デーモン ( クラスタ全体に関する監査レポートを生成するには,監査ログ名の CDSL を監査リダクション・ツール ( エンハンスト・セキュリティ機能が必要な場合は,クラスタの作成前にエンハンスト・セキュリティ機能を構成することを強く推奨する。クラスタの作成後にエンハンスト・セキュリティ機能を構成するには,クラスタ全体をシャットダウンし,リブートする必要がある。 |
|
クラスタからの
この要件は,クラスタのメンバ間で機能する
詳細は,5.3 節を参照。 |
表 1-6
に,システム構成および管理用のコマンドおよびユーティリティの動作の違いを示します。
表 1-6: 一般のシステム管理に関する相違点
コマンド | 相違点 |
DMS (Dataless Management Services) | DMS は TruCluster Server 環境ではサポートされていない。クラスタは,DMS のクライアントにもサーバにもなれない。 |
イベントは
クラスタ・イベントの一覧については,付録 A を参照。 |
|
|
クラスタ全体に影響する
コマンド
クラスタは
クラスタをシャットダウンして停止することはできるが,クラスタ全体をリブートすることはできない (つまり
クラスタの特定のメンバをシャットダウンするには,そのメンバから
詳細は,
|
hwmgr (8) |
クラスタでは,
|
プロセス制御関連 |
クラスタ全体に一意のプロセス識別子 (PID) を割り当てるには,プロセス ID の範囲をクラスタの各メンバに割り当てる。 |
kill (1) |
ゼロ (0) より大きいパラメータを指定すると, クラスタ・メンバ上の
|
rcmgr (8) |
詳細は,5.1 節を参照。 |
sysman -clone |
構成のクローン作成と複製はクラスタ非対応。 クラスタ内で
|
システム課金サービスおよび関連コマンド
|
これらのコマンドはクラスタ対応ではない。 これらのコマンドの 1 つを実行すると,実行元のクラスタ・メンバに関する情報のみが返され,クラスタ全体に関する情報は返されない。 5.15 節を参照。 |
表 1-7
に,TruCluster Server でサポートされていない機能を示します。
表 1-7: サポートされていない機能
機能 | コメント |
アーカイブ関連
|
ファイルのバックアップおよび復元についての詳細は,9.8 節を参照。 |
LSM 関連
|
クラスタ内での LSM についての詳細は,第 10 章を参照。 |
mount (8) |
NFS ループバック・マウントはサポートされていない。詳細については,7.6.2.4 項を参照。
|
Prestoserve
|
Prestoserve はクラスタ非対応。 |
routed (8) |
TruCluster Server バージョン 5.1B より前のリリースでは,クラスタのルーティング・デーモンとして
最初のクラスタ・メンバを作成するときに, ルータについての詳細は,6.3 節を参照。 |
DMS (Dataless Management Services) | DMS は TruCluster Server 環境ではサポートされていない。クラスタは DMS クライアントにもサーバにもなれない。 |
UNIX ファイル・システム (UFS) | クラスタ・メンバは UFS ファイル・システムを読み取り/書き込みでマウントできる。ファイル・システムはそのメンバだけがアクセスできる。リモートからはアクセスできず,フェイルオーバはできない。 |
sysman -clone |
構成のクローン作成と複製は非クラスタ対応。 クラスタ内で
|