Advanced Printing Software は,ネットワーク・プリンティング・サービスです。これは,プリンタの種類にかかわらず,ローカル・ネットワークのどこからでもジョブおよびプリンタを管理します。このサービスでは,ユーザと利用できるプリンタの間にスマート・リンクが提供されます。
1.1 Advanced Printing Software を使用する利点
Advanced Printing Software によって管理されるプリンタを使用すると,次のような利点があります。
ジョブを特定のハードウェア・デバイスではなく論理プリンタに対して実行する。
論理プリンタに対して実行されたジョブは,ジョブを正しく印刷するための物理プリンタが存在するかどうか調べられます。適切な物理プリンタが存在する場合はジョブがそれに割り当てられ,存在しない場合はジョブが拒否されます。
複雑なセットアップ手順を使用することなく,プリント・ジョブを任意のプリンタに送信する。
知る必要があるのは,プリンタが物理的にどこにあるかだけです。
ジョブをプリンタに送信した後は,グラフィカル・ユーザ・インタフェース (GUI) またはコマンド行インタフェース (CLI) のいずれかを使用して,その処理状況をモニタできます。
プリント・ジョブ状態の通知を受け取る。
プリンタが稼動していないこと,またはプリント・ジョブが完了したことの通知などがあります。
管理者のサポート業務が改善される。
統合されたプリンタおよびジョブ管理ツールを使用することにより,管理者はプリント・システムをより高度に保守できるようになります。
従来の BSD ベースのプリント・システムと相互運用が可能。
Advanced Printing Software は,lpr/lp コマンドによって実行されるプリント要求を受け取り,それを処理するために必要な基本的機能を提供します。また,ジョブをリモートの lpd サーバやプリンタに転送することもできます。
1.2 Advanced Printing Software の用語
次の用語は,Advanced Printing Software がプリント要求を処理する方法を記述するために使用されます。
論理プリンタ - 1 つ以上の物理プリンタのソフトウェア表現。ジョブのニーズに合った特性を持つ論理プリンタに対して,プリント要求を出します。論理プリンタのオブジェクトは,スプーラ・プロセスおよびそれらのデータベースに存在します。
物理プリンタ - 物理デバイスのソフトウェア表現。物理プリンタのオブジェクトは,スーパバイザ・プロセスおよびそれらのデータベースに存在します。
物理デバイス - 特定の特性と機能を持つ実際の出力デバイス。たとえば,HPLaserJetIII や Xerox 4230 レーザ・プリンタなど。
キュー - キューは,印刷の準備ができるまでジョブを保留するプールとして機能します。論理プリンタはジョブをキューに挿入し,物理プリンタはキューからジョブを取り出します。
オブジェクト - プリンタやキューのような多様なエンティティを表現するために使用される抽象概念。プリント・システムのオブジェクトはそれぞれ,属性の集合を持ちます。
属性 - オブジェクト自身の識別情報,物理構成,または状態に関連するオブジェクトの特性。プリント・システムのオブジェクトには,すべてそのオブジェクトに関する情報を提供する属性の集合が含まれます。たとえば,printer-state 属性は,idle (アイドル) や printing (印刷中) といったプリンタの現在の状態を示します。ジョブを実行するとき,ジョブについての属性,およびジョブが持つドキュメントを指定できます。
本書で説明するコマンド行インタフェースに加えて,Advanced Printing Software には,プリント・ジョブの実行やプリント・ジョブのモニタに使用することができるグラフィカル・ユーザ・インタフェースが用意されています。
pdprint はプリント・ジョブを実行するために使用する GUI プログラムであり,pdprintinfo はジョブおよびプリンタの状態を取得するために使用する GUI プログラムです。これらの GUI には,コマンド行から,または CDE デスクトップの「印刷マネージャ」アイコンからアクセスできます。これらのプログラムには,次の方法を使用してアクセスできます。
pdprint には,コマンド行でコマンドを入力するか,印刷するファイルを CDE デスクトップで「印刷マネージャ」アイコンの上にドラッグ・アンド・ドロップすることによりアクセスできます。
pdprintinfo には,コマンド行でコマンドを入力するか,「個人プリンタ」サブパネル・メニューから「印刷マネージャ」を選択することによりアクセスできます。
pdprint および pdprintadmin GUI には,アプリケーション・マネージャから Advanced_Printing を選択することによってもアクセスできます。
プリント・システム・コマンドの構文は,すべて例 1-1
に示す形式をとります。
例 1-1: コマンド行の構文
コマンド名 オプション オプションの引数 オブジェクト・インスタンス
次に,4 つの構文要素を示します。
コマンド名
オプション
オプションの引数
オブジェクト・インスタンス
コマンドは次のようになります。
pdpr -n 2 opus1.txt
1.5 オプションおよび引数の指定
オプションおよびオプションの引数は,プリント・システム・コマンドの省略時の動作を変更します。CLI コマンドでオプションおよび引数を使用する場合は,次のガイドラインが適用されます。
オプション名は,マイナス符号と 1 つの小文字または大文字で構成される。たとえば,-h のようになる。
オプションは必ずオペランドの前にくる。
オプションの引数は,空白で区切られてオプションに続く。オプションが複数の引数を持つ場合,引数は空白によって他のコマンド要素と区別される。
コマンドは,オプションおよびオプションの引数を,コマンド行に指定された順に解釈する。
すべてのオプションがすべてのコマンドで機能するわけではない。各コマンドの詳細な説明を読んで,使用するコマンドにはどのオプションが有効かを判断する。
コマンドの中には,最低 1 つのオペランドを指定しなければならないものもあります。コマンドのオペランドは,操作を実行するファイルの名前などのオブジェクトを指定します。
オペランドをとるコマンドの一部は,プリント・システムの異なるクラスのオブジェクトで操作を実行することができます。オブジェクトのクラスは,それがどのような種類のオブジェクトなのか (たとえば,プリンタ,キュー,ジョブ,サーバ,またはドキュメント) を示すものです。-c
class
オプションを使用して,コマンドのオペランド・クラスを指定します。
次の表は,エンド・ユーザが利用できるコマンドを要約したものです。
表 1-1: エンド・ユーザ・コマンド
コマンド | 説明 |
pdls | プリント・オブジェクトの属性をリストする。 |
pdmod | 以前に実行されたプリント・ジョブまたはドキュメントを変更する。 |
pdpause | 自分のプリント・ジョブを一時停止する。 |
pdpr | プリント・ジョブを実行する。 |
pdq | プリント・ジョブについてレポートしたり,その状態を取得したりする。 |
pdresubmit | 他の論理プリンタに対してプリント・ジョブを再実行する。 |
pdresume | 自分のプリント・ジョブを再開する。 |
pdrm | 自分のプリント・ジョブを削除する (すなわち,取り消す)。 |
この表から,たとえば
pdls
と
pdls -c job
は,同じ結果になると推測することができます。
1.7 属性
プリント・システムは,プリンタ,ジョブ,ドキュメント,およびキューのようなオブジェクトを使用することにより,プリント・ジョブを管理します。すべてのオブジェクトには属性とそれに関連付けられた属性値があります。次に例を示します。
ジョブおよびドキュメントの属性は,ジョブおよびドキュメントについてのプリンタの必要条件を決定します。
テキスト・ジョブの属性は,シンプル・テキスト・ジョブを印刷するための制御を行います。
物理プリンタの属性は,オブジェクトが表すプリンタ・デバイスの機能を定義します。
以降の各項では,print コマンドで属性を使用する方法についてのガイドラインを示します。
1.7.1 属性の省略時の値
属性の中には,省略時の値を持つ属性もあります。しかし,ほとんどの属性では,省略時の値は「値なし」です。属性値はいくつかの方法で変更できます。
属性の省略時の値を指定変更するには,-x と -X オプションを使用して別の値を指定する。
属性のすべての値のクリアするには,pdmod または pdset コマンドを使用し,属性名を指定して,後に ="{}" を付ける。
属性値をその省略時の値に変更するには,pdmod または pdset コマンドを使用し,属性名を指定して,その後に値を指定せずに == を付ける。
すべての属性と,それに関連付けられた値についての詳細なディレクトリは,『Advanced Printing Software コマンド・リファレンス・ガイド』を参照してください。
1.7.2 属性値の構文
属性の中には,一度に値を 1 つだけとる属性 (単一値属性) と,複数の値をとる属性 (複数値属性) があります。さらに 1 つ以上の値を持ち,それぞれの値自身が,複数のコンポーネントを持つ属性もあります (複合属性)。
この項では,単一値,複数値,および複合のそれぞれの属性の構文を説明します。
1.7.2.1 単一値属性
単一値属性の構文は次のとおりです。
attribute=value
次に例を示します。
copy-count=2
複数値属性の構文は次のとおりです。
attribute="value_1 value_2 ... value_n"
次に例を示します。
content-orientations-supported="portrait landscape"
複合属性の構文は次のとおりです。
attribute="{attribute=value attribute=value attribute=value}"
次に例を示します。
access-control-list="{name-type=all-users privilege-level=end-user}"
属性または標準識別子の値は,名前または値の中の,各単語の何文字かだけを使用することによって短縮することができます。たとえば,job-sheets 属性の代わりに j-s という短縮形を使用し,job-copy-start という値の代わりに j-c-s という短縮形を使用して,この属性を j-s=j-c-s と指定することができます。
システムはあいまいでない短縮形だけを許容します。たとえば,job-owner を j-o と短縮すると,これは job-originator の短縮形でもあり得るので,有効ではありません。属性または値の名前は,それが一意となるように指定する必要があります。
次に,有効な短縮形の例を示します。
job-owner は,j-ow または job-own job-originator は,j-or または job-orig iso-a3-white は,i-a3-w
サイト固有の用紙またはトレイの名前のように,標準識別子でない値は短縮できません。
1.8 ジョブおよびドキュメントの識別子
プリント・ジョブはすべて,一意のジョブ識別子によって識別されます。ジョブ識別子は,サーバ (スプーラ) 名,コロン,およびジョブ番号で構成されます。サーバは,プリント要求の一部としてジョブを受け取ったときに,ジョブ識別子を割り当てます。
有効なジョブ識別子は,たとえば galileo_spl:1564 や kepler:1571 のようになります。
pdpause や pdresume のような一部のコマンドは,ジョブ識別子をオペランドとして受け取ります。このようなコマンドでは,マルチ・ドキュメント・ジョブの中のドキュメント識別子を指定することも可能です。
コマンドの中には,マルチ・ドキュメント・ジョブの中の特定のドキュメントを識別する必要があるコマンドもあります。ドキュメント識別子は,ジョブ識別子,ピリオド,およびドキュメント番号として表現されます。マルチ・ドキュメント・ジョブの中では,ドキュメントに 1 から始まる番号が付けられます。
kepler:1571
が有効なジョブ識別子の場合,このジョブの 2 番目のドキュメントは
kepler:1571.2
となります。
1.9 コマンドについてのヘルプの表示
コマンドおよびそのオプションについてのヘルプを表示するには,コマンド名の後に -h オプションを付けて入力します。たとえば,pdpr コマンドについてのヘルプを表示する場合は,次のように入力します。
%
pdpr -h
また,man
コマンドを使用して,プリント・システムのコマンドについての情報を表示することもできます。たとえば,pdpr コマンドについてのヘルプの場合は,次のように入力します。
%
man pdpr