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OpenVMS マニュアル


 

OpenVMSドキュメント
ライブラリ

タイトルページ
目次
まえがき
第 1 部:概要
第 1 章:OpenVMS の現在,過去,未来
第 2 部:基本操作
第 2 章:ログイン/ログアウト
第 3 章:DCL コマンド
第 4 章:パスワードの変更
第 5 章:ヘルプとシステム・メッセージ
第 6 章:キーボード
第 7 章:エディタ
第 8 章:ファイル指定
第 9 章:ディレクトリ作成
第 10 章:ファイル操作コマンド
第 11 章:ファイル保護
第 3 部:OpenVMS の便利な機能
第 12 章:ファイルの印刷
第 13 章:バッチ・キュー
第 14 章:プロセス
第 15 章:シンボル
第 16 章:論理名
第 17 章:コマンド・プロシージャ
付録 A :システムの起動と停止
付録 B :日本語環境の設定
付録 C :ネットワークを利用したファイル操作
付録 D :JMAIL ユーティリティ
付録 E :レキシカル関数一覧
付録 F :Linux または UNIX,MS-DOS,日本語 OpenVMS コマンド対応表
付録 G :関連アプリケーション
付録 H :PC 関連製品
付録 I :クイック・リファレンス
付録 J :日本語マニュアル・クイック・リファレンス
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はじめよう!日本語 OpenVMS

はじめよう!日本語 OpenVMS


目次 索引

第 1 章
OpenVMS の現在,過去,未来

  注意
この章の内容は,OpenVMS が Integrity サーバにポーティングされる前の 2002年時点の情報になります。

Integrity サーバへのポーティングや OpenVMS 30周年の話題などを紹介した OpenVMS の歴史のページを下記の URL の OpenVMS の web サイトで公開していますので,合わせてご参照ください。

http://www.hp.com/jp/openvms/



春もうららのある日,新入社員の A さんが,学校の先輩 Z 氏のオフィスへやってきます。

「やあ,Aさん。入社おめでとう。」

「 Z さん,入社にあたっては色々とお世話になりました。おかげさまで配属部署も希望どおりになりました。」

「それはよかった。でも,それにしては少し元気がないね。」

「実は,それで相談にうかがったんですけど,1 つシステムの管理を任せていただけることになったんです。」

「君の実力が評価されたんだね。チャレンジしがいがあるじゃないか。」

「でも,そのシステム,OpenVMS というんです。UNIX なら経験があるんですけど。まったく知らなくて。それで,学生時代,VMS の仙人っていわれてた Z さんからコツを教えていただこうとうかがったんです。」

「ハハ,仙人はまいったな。まあ,OpenVMS といって何も特殊なことはないんだ。UNIX の経験があれば,OpenVMS のオペレーションを理解することはそんなに難しいことじゃない。コマンド体系なんかは,いろんな機能を寄せ集めた UNIX よりも,1 社で開発した OpenVMS の方がずっと体系的だよ。OpenVMS のオペレーションそのものについては, 第 2 章 以降で具体的に説明するとして,その前に OpenVMS について概要を紹介しておこう。」

「おねがいします。」

1.1.1 OpenVMS の定義

「まず,OpenVMS とは何だろうか?」

「オペレーティング・システムですよね。UNIX や Windows なんかと同じだと思いますけど。」

「そう,ではオペレーティング・システムとして,OpenVMS の特徴はなんだろう?」

「えーと。」

「第 1 の特徴は,シングル・アーキテクチャということなんだ。」

「シングル・アーキテクチャ?」

「シングル・アーキテクチャとは,小規模から大規模まですべてのコンピュータ・システムで,同じ環境を提供するというコンセプトのことなんだ。OpenVMS では,1 CPUから 32 CPU までのシステムを,すべて同じ OpenVMS でサポートしているんだ。これは,ハードウェアとしての Alpha アーキテクチャと Alpha システム,オペレーティング・システムとしての OpenVMS が密接に協力し合うことで初めて実現できていることなんだ。」

「でも,すべてのコンピュータ・システムと言っても,モバイル環境やデスクトップ環境まではサポートできていないと思うんですけど。」

「確かにその通りだね。後でもう少し詳しく説明するけれど,シングル・アーキテクチャというコンセプトは,今から 20 年以上も前, OpenVMS の初期設計の段階から構想されていたことなんだ。そういう意味では,現在の PDA やノート PC,デスクトップ PC などなど,多様なクライアント環境をサポートすることは想定されていなかったんだね。」

「ということは,OpenVMS はシングル・アーキテクチャを実現するオペレーティング・システムということですね。」

「そう,そしてこのことは OpenVMS の第 2 の特徴でもあるんだ。つまり,OpenVMS はサーバ・システム向けのオペレーティング・システムであるということだ。」

「サーバ・システム向けってどういう意味ですか?」

「言い換えると,サーバ・システムとして必要な特性を備えたオペレーティング・システムということだ。サーバ・システムとして必要な特性に関しては,いろんな考え方があるだろうが,僕は 2 つの重要な特性があると思う。

 拡張性
 信頼性

この 2 つだね。」

「それぞれの特性をもう少し詳しく説明してください。」

「まず,拡張性だけれど,サーバ・システムは,より大量のデータをより短時間で処理することを常に目標にしていると考えていいだろう。拡張性は,この目標を実現するための特性なんだ。もちろん,Alpha チップをはじめとして,サーバ・システムで利用される CPU はどれも高速性を競っているし,メモリにしても,ストレージにしても大容量なものがサポートできる。しかしシングル CPU システムではやはり限界があるわけだ。」

「それで対称型マルチプロセッシング SMP が登場するわけですね。」

「 1 CPU よりは 2 CPU,2 CPU よりは 4 CPU と CPU を増やしていけば,処理能力は増加することになる。同時に,メモリ容量や接続できる IO スロット数も増加することになる。たとえば,最も大規模な Alpha サーバ, GS320 は,32 CPU,メモリ容量 256 GB,224 個の PCI スロットまでサポートできる。もちろん OpenVMS は,この大規模な SMP システムが最高の性能を実現できるようにサポートしているわけだ。」

「でも CPU の数が増えてくると,単純な拡張は難しいと聞いたのですが。」

「そう,実際のところ GS320 のシステム・アーキテクチャも,単純な SMP ではなくなっている。しかし,アプリケーションがそれを意識するようでは,シングル・アーキテクチャとは呼べない。このギャップを解消することも OpenVMS の役割なんだ。」

「 32 CPU も搭載できれば,どんなアプリケーションでも対応できますね。」

「ところがそうはいかない。実際,GS320 でも処理しきれないほどの処理量を抱えたシステムがいくつも存在するんだ。また,アプリケーションの性質によっては,SMP が有効でない場合もある。」

「そういう場合は,どうするんですか?」

「最近,クラスタリングやクラスタ・システムという言葉をよく聞くだろう。これは,単一システムを超えた拡張性を実現するために,OpenVMS がはじめて提供した機能なんだ。クラスタリングとは,複数のマシンを接続して,全体を 1 つのシステムに見せる技術だ。クラスタリングによって,ほとんど制約なしに,無限の拡張性を実現することが可能になるんだ。」

「でも,最近話題になるクラスタリングは,UNIX や Windows のものですけれど。」

「OpenVMS は既に 15 年以上も前からクラスタリング機能を提供している。 UNIX や Windows はこれに追いつこうとしているわけだ。けれど,クラスタリングの機能はオペレーティング・システムの核の部分と密接に関わっている。クラスタリング・ソフトウェアをオペレーティング・システムの上にかぶせただけのやり方では,十分な拡張性が提供できないだけでなく,システムとしての品質を維持できなくなる。」

「つまり,OpenVMS のような完成されたクラスタリング機能でなければならないということですね。」

「だんだん,わかってきたじゃないか。次に,信頼性についても簡単に説明しておこう。信頼性の定義も議論のあるところだが,サーバ・システムとして一番重要な信頼性の目標がサービスを停止させないこと,もし一時的に停止したとしてもできるだけ短期間でサービスを再開できることにあるということは誰でも合意できるだろう。」

「当然,ハードウェアやソフトウェアの品質や信頼性が問題になるわけですね。」

「 Alpha システムでは,ハードウェアとしての信頼性を高めるさまざまな機能を提供している。同時に,OpenVMS もソフトウェアとしての品質を維持しながら,信頼性を高める機能を提供している。しかし...」

「しかし 1 台のシステムでは,信頼性の向上は限界がある。それでクラスタリングというわけですね。」

「うむ,クラスタを構成する複数のマシンは接続しているとはいえ,それぞれが独立したシステムだ。1 台に障害が発生したとしても,他のマシンに直接影響するわけではない。このことを利用して, 1 台のシステムで実現できない信頼性を提供することもクラスタリングの重要な機能なんだ。」

「具体的にはどうするんですか?」

「単純に言えば,クラスタ・システムの1台のマシンが障害を起こしたとき,そのマシンでサービスを提供していたアプリケーションを他のマシンが引き継いで実行し,サービスを継続させる。これをフェールオーバと一般的に呼んでいる。」

「それは,UNIX や Windows のクラスタ・システムでも提供していますよね。」

「重要な点は,特別なプログラミングや特別な操作を必要とせず,できるだけ制約事項なしに,フェールオーバを実現することだ。 OpenVMS のクラスタリング機能は,クラスタ・システムの各マシンから,システム全体がまったく同じように見えるシングル・システム・イメージを完全に実現している。このため,OpenVMS では,ほとんどのアプリケーションで,手を加える必要なしにフェールオーバが可能なんだ。」

「なるほど。OpenVMS の第 3 の特徴は,完全なクラスタリング機能を提供するオペレーティング・システムということですね。」

「そして,これが僕の説明したかった最後の特徴になるわけだ。」

1.1.2 OpenVMS とユーザ

「OpenVMS のすばらしさはわかってきた気がするんですけど,残念ながらあまり使われている場面を見たことがないんですけど。」

「うんうん,確かに日常的にお目にかかるというわけにはいかないだろうけど,聞いたところでは,全世界で 50 万台,約 1 千万人のユーザがいるそうだ。」

「どんな分野で利用されているんですか?」

「これも聞いた話では,全世界の十大証券取引所の 5 つで OpenVMS が取引業務に利用されているそうだ。また,全世界の携帯電話の課金処理の 50 %以上が OpenVMS で処理されている。そして全世界の CPU チップ生産の 90 %以上は OpenVMS が管理している。」

「日本ではどうなんですか?」

「製造業やテレコム業界で,よく利用されているようだね。特に半導体や液晶の生産管理システムで採用されているのは,よく話題になっている。」

「なんだか裏方的な役割が多いですね。」

「そうだね。しかし,取引業務や課金処理,生産管理など,その事業の根幹に関わるサービスを提供する役割なんだ。クライアント・システムのように,直接利用するシステムではないけれど,僕らの社会を支える基盤サービスを提供しているなくてはならないオペレーティング・システムといえるだろう。」

1.2 OpenVMS 年代記

「ところで,さきほど OpenVMS が誕生して 20 年以上になるっておっしゃってましたけど,そんなに古いオペレーティング・システムなんですか?」

「ハハ,古いとは人聞きが悪いね。OpenVMS のすばらしさは,その 20 年以上にわたって,常にその時代の先端になる機能を提供しつづけているということなんだ。それでは,OpenVMS の栄光の歴史を年代記風に辿ってみるとするかな。」

1.2.1 VMS の誕生

「OpenVMS はいつ誕生したんですか?」

「VMS V1.0 が発表されたのは 1977 年だ。同時に最初の VAX システム, VAX-11/780 が発表されている。これは完全な 32 ビット・アドレッシングのシステムとしては,最初のものの 1 つだろうね。当時は,OpenVMS ではなくて,VMS と呼んでいたんだ。ちなみに, VMS を開発したのは DEC ,ディジタル・イクイップメント社だ。」

「VMS ってどういう意味なんですか?」

「仮想メモリ・システム Virtual Memory System の頭文字をとって命名されたんだ。32 ビット・アドレッシングという当時としては使い切れないほどの大規模なメモリ空間をサポートする一番重要な機能,仮想メモリ・システムにあやかったんだろうね。」

「ところでさっき,シングル・アーキテクチャが最初から構想されていたという話がありましたけど。」

「実は,DEC は 16 ビット・アドレッシングのシステム,PDP の時代に重大な問題を抱えていた。DEC では PDP のために用途ごとに異なったオペレーティング・システムを提供していたんだ。この方式では,アプリケーションの互換性がなくなってしまうし,開発や管理のコストが増大してしまう。OpenVMS と VAX の開発では,この問題に対する深刻な反省の結果として,シングル・アーキテクチャというコンセプトが採用されたんだ。つまり,1 つのプラットフォーム, 1 つのオペレーティング・システムというキャッチフレーズだ。」

1.2.2 ネットワーキング

「ところで,OpenVMS ではインターネットの他に,DECnet というネットワーク・システムを持っていると聞いたんですけど。」

「実は,シングル・アーキテクチャのキャッチフレーズには,続きがあって, 1 つのネットワークで締めくくられる。それほど,ネットワーキングを重要視していたんだね。そして,ネットワーキングでシングル・アーキテクチャを締めくくる製品が DECnet だったわけだ。実際,DECnet は VMS V1.0 から同時に提供されているんだ。」

「インターネットに関しては,どうでしょうか?」

「 DEC は,インターネットの開拓者の 1 つといえるだろうね。たとえば,イーサネットの開発/標準化をゼロックス,インテルと共同で行っている。その他にもさまざまなインターネット技術が DEC の技術者の手で開発されている。初期のファイアウォールも DEC の技術者によって開発されたんだ。OpenVMS 上のインターネット製品に関しては, DECnet が成功しすぎたこともあって,いささか出遅れていたけれど,現在では IPv6 や IPsec など先端の技術が提供されている。」

1.2.3 クラスタリング

「クラスタリング機能は15年以上前に登場したとおっしゃってましたね。」

「正確には,1983 年のことになる。当時は,VAXcluster と呼んでいたんだ。」

「 UNIX や Windows のクラスタリングが登場する 10 年以上前なんですね。」

「驚くべきことに,この最初の発表当時に,現在のクラスタリング技術の基本コンセプトが全て提供できていたということだ。特に重要なことは,クラスタ・システムを1つのマシン環境のように見せるシングル・システム・イメージが最初から実現されていたと言うことだ。これは,現在でも,UNIX や Windows のクラスタ・システムでは,ほとんど実現できていない。」

「登場時点で完成されたクラスタ・システムだったわけですね。そして,その後の発展はどうなんでしょうか?」

「クラスタ・システムで一番重要なコンポーネントは,クラスタ・メンバ間を接続するインターコネクトなんだ。発表当初はインターコネクトとして,専用のハードウェアが必要だったんだ。クラスタリング技術を普及させるために,このインターコネクトの選択肢として,より安価で標準的なハードウェアを提供する必要があると考えたんだね。そこで,以降のバージョンでは,イーサネットや FDDI などが順次サポートされていったんだ。」

「OpenVMS は,災害にも対応できるって聞いたんですけど。」

「そう,それもクラスタリングの機能を利用している。対災害性を強調するために,ディザスタトレランスと呼んでいる。ディザスタトレランスというのは,ビル全体や地域全体に被害が及ぶような,火災や地震といった災害に対しても,サービスの継続を保証する技術なんだ。具体的には一種のクラスタ・システムなんだが,クラスタのメンバが,数十キロから数百キロ離れた場所に配置される。」

「それでどちらか一方のメンバが被害を受けても,のこりのメンバがサービスを継続できるんですね。クラスタ・システムでそんなことまで実現できるんですね。」

「もちろん,現在のクラスタ・システムで,ここまでサポートできるのは, OpenVMS だけなんだ。クラスタ・システムの頂点に立っていると言えるだろうね。」

1.2.4 Alpha と 64 ビット・オペレーティング・システム

「 Alpha システムはいつ頃から登場したんですか?」

「ようやく僕の時代に入ってきたね。Alpha チップと Alpha システムが発表されたのは,1992 年のことになる。」

「えー,上司からは VAX 世代の Z さんって聞いたんですけど。」

「むむむ,それはさておき,Alpha と聞いて何を思いつくかな?」

「ともかく早いということでしょうか。」

「そうだね,しかしソフトウェアの側から見ると,世界最初の 64 ビット・アドレッシングということが重要なんだ。 1992 年当時では,まだまだ 32 ビット・アドレッシングで十分という意見が多かったが,最近ではデスクトップ PC でも数百MBのメモリが必要になっている。まして,サーバ・システムでは数 GB 単位でメモリを持つことが常識になっている。また,それに対応してアプリケーションの側でも大規模なメモリ空間を利用した高速化が当然のこととして行われている。この大容量の実メモリと大規模なメモリ空間を有効に使い切るためには, 64 ビット・アドレッシングは必須の機能になっている。」

「つまり,Alpha は時代を先取りして,現在の 64 ビット・アドレッシングによる高速サーバ・システムの時代を切り開いたんですね。」

「もちろん,OpenVMS もこの64ビット・アドレッシングにいち早く対応し,その可能性を追求している。 たとえば,大容量の実メモリを利用して,データベースの高速化を図る VLM,Very Large Memory などが既に提供されている。しかし,64 ビットというほとんど無限大のアドレス空間は,まだまだ無限の可能性を秘めていると言えるだろうね。その可能性を極めることが,OpenVMS に課せられた 21 世紀にまたがる課題と言えるだろう。」

「ところで年代記で重要な点にまだ触れていただいていないんですけれど。」

「なんだい?」

「いつ VMS が OpenVMS になったんでしょう?」

「これはうっかりしてた。OpenVMS に正式に名称を変更したのは, 1991 年で Alpha の発表とほぼ同期しているね。OpenVMS は 1 つの企業が設計 / 開発しているオペレーティング・システムだけど,そのインタフェースとしては POSIX や OSF/Motif などオープンな規格が採用されている。オペレーティング・システムとしてのオープン性を強調するネーミングと言えるだろう。」


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